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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【世界の図書館から】イラン国立図書館

図書館入口

イラン国立図書館

水上 遼

東京大学大学院人文社会系研究科アジア史専門分野博士課程

(テヘラン大学人文科学部歴史学科研究生)

イラン国立図書館(Ketābkhāne-ye Mellī-ye Īrān)は、建設中の集団礼拝施設モサッラー(Moṣallā)の北、テヘランを見下ろせる高台に位置する。同図書館は規模、利用者数ともにテヘランで最大の図書館であり、また貴重な写本を数多く所蔵しているため、研究者にとっても利用する価値の高い図書館である。

本図書館の略歴を図書館ウェブサイトから抜粋する。ガージャール朝時代のヒジュラ太陽暦1231年(1852/3年)に、テヘラン市内にDār al-Fonūnという学校が立てられた。この学校は、ヨーロッパから教員を招き、ヨーロッパ式の学問・科学を教えるという、新しいスタイルを持つものであった。そして、1243年にそこに小さな図書館が併設されたのが本図書館の起こりである。さらに、モザッファロッディーン・シャー時代にあたる1276年に科学と文化の普及のために「学術協会 Anjoman-e Maʻāref」が設立されると、同協会は翌年にDār al-Fonūnの脇に「学術国民図書館 Ketābkhāne-ye Mellī-ye Maʻāref」(「Mellī」という名を関していても、この時点ではイラン政府と関係がなかった)を設立した。1284年にこの学術国民図書館は前述のDār al-Fonūnの図書館と合併された。その後名称変更などを経て、1316年(1937年)に正式に国立図書館となる。現在の蔵書数は約186万点、所蔵写本は28158点、石版本は26000以上とされる。

次に、図書館利用のための手続きについて説明する。本図書館を利用するためには、会員証(ʻożvīyat)をつくる必要がある。会員証をつくるためには、まず図書館正門にある守衛詰所(会員証をかざして入るゲートがある)でその旨を伝えて必要書類に記入し、パスポートを提示する。それから金・祝日を除く3日程度経つと処理が終わるはずである。再度この詰所を訪れ、守衛に頼んで会員登録部門(edāre-ye ʻożvīyat)に連絡してもらい、ゲートを抜けて会員登録部門へ向かう。筆者の経験では、書類記入から3日以上経っていたにも関わらず、再度訪れた際に会員登録部門に書類が届いていなかった。だが、事情を説明し、その場で新たにフォームに記入すると、その場で処理を行ってくれた。

会員登録部門で大学発行の紹介状を渡し、会費を支払う。会費は会員証の有効期間によって異なり、筆者が訪れた時(2015年)は、有効期間が3か月で15万リヤル、6か月で20万リヤル、1年で30万リヤルであった。支払いを済ませた後、会員証カード発行のオフィスへ移動する。そこで写真を撮ってもらうと、すぐに写真付き会員証カードを発行してくれる。カードが手に入れば、館内はもちろん、写本室の利用も可能になる。

館内に入ると、まずロッカーで大きな荷物を預けなければならない。カバンや本の持ち込み、持ち出しは注意深くチェックされており、ノート類であっても本ではないかと疑われる程である。混雑する時間帯だと、ロッカーを借りるために行列ができてしまうこともある。また、閲覧用の机や検索用のパソコンも男女でエリアがわかれているので、注意が必要である。なお、図書館敷地内には軽食を販売するスペースや、書店が併設されている。

刊行図書閲覧室

最後に、写本室の利用について説明する。本図書館写本室はマレク国立図書館に似て、写本の現物の閲覧は基本的に不可能だが、画像データの閲覧やコピーの申請は非常に簡単に行える。写本室は入口から階段を下りたフロアにある。写本室入口で再度会員証カードをかざして入る。まず室内に置かれているパソコンから、見たい写本を検索する。そこで写本の「検索番号 shomāre-ye bāzyābī」をみつけ、ひかえる。この番号は写本カタログに記載されている写本番号とは異なるので注意が必要である。その番号を受付に伝えると同じ端末の「digital book」というフォルダにその写本の画像データを送ってくれる。司書によれば、刊行されている写本カタログ(下記参照)は未完であり、パソコンから検索できる情報の方が充実しているとのことであった。

コピーを申請する場合、先ほどの「検索番号」と、コピーしたいページの画像ファイルの番号(フォリオの番号ではない)を申請用紙に記入し、受付に提出する。コピー代金は1画像2000リヤルであり、申請後15分ほどでコピーをしたCDをくれる。

写本室入口

また、本図書館は、イラン国内の写本所蔵情報を網羅した横断カタログを作成している。タイトルはFihristigān-i nuskhahʹhā-yi khaṭṭī-i Īrān (表記はnacsis翻字規則に基づく。略称 Fankhā)であり、現在34巻まで刊行されている(アレフバー順であり、第34巻は「yahūd」まで)。筆者は、このカタログがすでに完結したという話は聞いておらず、今後補遺や索引などが出版される可能性はあるだろう。いずれにせよ、これまで研究者たちに用いられてきた横断カタログDenāを情報量で上回るものであることは間違いないだろう。

写本カタログ(未完。表記はnacsis翻字規則に基づく)

Fihrist-i nusakh-i khaṭṭī-i Kitābkhānah-i millī-i Īrān (vol. 1-9 or 10?)

Fihrist-i nusakh-i khaṭṭī-i Kitābkhānah-i millī-i Jumhūrī-i Islāmī-i Īrān (vol. 10 or 11-)

アクセス

Tehrān, Bozorgrāh-e Shahīd aqqānī, Kitābkhāne-ye Mellī

地下鉄1号線Shahīd Ḥaqqānī駅を降り、Shahīd aqqānī通りをやや東に行ったところにあるターミナルから乗り合いミニバスで図書館正門へ。帰路は図書館正門近くから地下鉄1号線Moṣallā駅経由で戻る乗り合いミニバスが出る。

図書館ウェブサイト

http://www.nlai.ir/

入館・閲覧に必要なもの

パスポート、大学発行のレター(会員証申請時)、会員カード(入館・閲覧時)

開館日時

図書館:毎日開館(祝日不明) 8:00-21:00

写本室:土~水 8:00-16:00

* 入館には会員証が必要。会員証発行には3日間(木金・祝日除く)ほどかかる。