【ACCU寄贈識字教育資料】ユネスコアジア文化センター(ACCU)寄贈識字教育資料の学術的、社会的価値

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中村雄祐

東京大学大学院人文社会系研究科教授

*中村雄祐教授は、リテラシー研究(Literacy Studies)を専門とする東京大学の研究者で、長くラテンアメリカを中心に調査・研究をしてこられました。1990年代にACCUの識字教育事業支援委員会委員を務められたご経験から、U-PARLコレクション「ACCU寄贈識字教育資料」の調査研究・整理にあたり様々な助言、ご教示をいただきました。ご寄稿に感謝申し上げます。ACCU寄贈識字教育資料の概要はこちらをご覧ください。

平成26年にユネスコアジア文化センター(ACCU)より東京大学附属図書館に寄贈されたアジア諸国における識字教育資料のリストがこの度、東京大学附属図書館U-PARLのウェブサイトで公開されることになりました。

現段階で登録されているのは、各資料の発行年、執筆者、出版者、使用言語・文字、主題などのメタデータですが、現地言語のわかる皆さん(学内の留学生やその言語を使用して研究している大学院生等)の協力を得て作られた、これ自体、貴重な労作です。

私は、1990年代、ユネスコアジア文化センターの識字教育事業支援委員会に委員として加わっておりました。私自身はアジア諸国について専門的知識は持ち合わせておらず内容まで踏み込んだ理解はできませんでしたが、会議でこれらの教材を拝見する度に、アジア各地の同時代の言語や生活文化に関する社会的にも学術的にも貴重な資料であると思っていました。 その後、ちょうどこの頃登場したICTの影響もあり、社会開発や国際協力のあり方は目を見張るような変化を遂げて今日に至っています。その意味では、これらの印刷物資料は今では教材としての役割を終えつつあるのかもしれません。とはいえ、新しい試みは常にそれまでの活動の蓄積の上に展開するものです。こうして体系的に整理された資料を関連データと組みわせて分析することで、活動の当事者の立ち位置ではなかなか相対化や客観視が難しい、そして未来につながる重要な問いを考えることができるでしょう。

例えば、国際協力の観点からは、この時期、成人女性を主な対象とした識字教育において実施団体は何を重視していたのか、活動の結果、どのような成果が得られたのか、を分析するための資料となります。また、この時期は、国際協力において文化的多様性が重視され始めた時期でもあります。それゆえ、言語学的な観点から、これらの教材で使用された多様な言語の正書法、語彙選択、語用論などの分析の可能性が開かれます。特に、これらの教材は「事業の企画から、内容の決定、資料の提供と編集、各国での普及や評価まで、参加国が平等な立場で共に実施する」という共同事業方式で作成されているので、対照言語学的な比較分析を行うこともできます。さらに、これらの教材には生活文化のイラストレーションもたくさん載せられているので、村落地域の物質文化や身体技法の観点から分析を行うこともできるでしょう。ACCUのサイトに行くと、同一テーマのテキストでも言語ごとに異なる絵が描かれるのを確認することができます。

http://www.accu.or.jp/litdbase/material/_data/ctPg/women.html

http://www.accu.or.jp/litdbase/material/_data/ctPg/environment.html

このような分析を踏まえて各地の現状を見直すならば、過去20年ほどの間にアジア各地の村落の女性や子供たちの生活がどのような変化を遂げてきたのか、また、地域間でどのような違いがあるのかを知るための手がかりとなるでしょう。そして、それらの知見が社会開発や国際協力のための基礎資料としても活用されると理想的です。ただし、そこまで目指すとなると、個人による手作業ではもはや追いつきません。これらの資料が持つ学術的、社会的な可能性を引き出すためには、今回公開されるリストを基礎として、またACCUのサイトで公開されている資料とも連携する形で、地域の専門家および情報学研究者の監修のもとで資料のさらなるデジタル化が進められることが望ましいと考えています。今回のリストの公開は、そのような可能性に向けた最初の大事な一歩であると思います。