中国キリスト教文献データベース Chinese Christian Texts Database について 

中国キリスト教文献データベース
Chinese Christian Texts Database
 http://www.arts.kuleuven.be/sinology/cct

日本学術振興会・特別研究員PD
新居洋子
東京大学大学院・人文社会系研究科・博士課程
王雯璐

ルーヴァンカトリック大学図書館の前景
撮影:王雯璐

1.概要
(1)意義

中国キリスト教文献データベース(Christian Chinese Text database, CCT-Database)は、その名の通り、中国キリスト教史関連の史料および研究著作の書誌データベースである。ベルギーのルーヴァンカトリック大学中国研究ユニットを中心に構築されている。早くからこの分野の書誌情報の収集と整理を進めていたチュルヒャー氏(Erik Zürcher)の作業を引き継ぎ、現在はドゥディンク(Ad Dudink)とスタンデルト(Nicolas Standaert)の両氏がおもな管理責任者となっている。

本データベースの前身としては、チュルヒャー氏他編のBibliography of the Jesuit mission in China: ca. 1580-ca. 1680 (Leiden University, 1991) およびスタンデルト氏編のHandbook of Christianity in China: Volume 1: 635-1800 (Brill, 2001) が挙げられよう。とくにHandbookは厚さ6cm近い大著で、清代中期以前のキリスト教宣教の概略から在華宣教師の人数や宣教地の変遷、主要な史料所蔵機関に関する情報まで細かく紹介した必須文献である。CCT-Databaseはこれをオンラインデータベース化し、さらに今世紀に入って発見あるいは発表された文献の情報を加え続けて現在にいたる。中国キリスト教研究関係のデータベースとしては世界最大規模といってよい。

中国キリスト教史はとりわけ多くの言語による史料と研究著作へのアクセスを必要とする分野のひとつである。漢文はもちろん、清代を対象とするならば満洲語史料も参照する必要があるし、宣教師の出身地も多様であることから彼らの報告もラテン語、ポルトガル語、フランス語などヨーロッパのさまざまな言語で書かれている。さらに現在この分野に関連する研究著作も英語と中国語をはじめ、世界各地のさまざまな言語に及んでいる。

もちろんこれら多言語で書かれたものを読解するのも一苦労なのだが、それ以前にこれらの文献を網羅的に把握することそのものが大きな困難を伴う。とくにこの数十年で所在が明らかとなった史料や研究著作は世界中で急激に増えており、個人が自力で捜索できる範囲を大きく超えている。とくに研究資金も文献へのアクセスの方途も限られている若手研究者にとっては、なおさらである。こうした状況のなかで、本データベースが利用できる意義はきわめて大きい。

また宣教師による著述は、(あらゆる種類の史料と同じように)誤りや偏りを含んでいるので注意を要するが、キリスト教や中国について知るうえで有益な情報も多く含んでいる。一例を挙げれば、中国で発行された公報である京報や邸報は、清末を除いて大部分が散逸したと考えられ、現物を確認するのがきわめて困難である。しかし当時中国で活動していた宣教師はかなりこまめにこれらを入手し、翻訳してヨーロッパへ送っており、当時の京報や邸報の様子を知る大きな手がかりとなっている。

(2)特徴
本データベースの大きな特徴はなんといっても、当該分野では比類のない網羅性と速報性にある。トップページ(https://www.arts.kuleuven.be/sinologie/english/cct)の解説(2019年11月1日閲覧)によればおよそ1050種の漢文および4000種の欧文史料、さらに8000種以上の二次文献が収められているとのことだが、この数字はすでに過去のものになりつつある。スタンデルト氏らは国際的な情報収集のネットワークを持っており、日々寄せられる、あるいは自ら調査した情報を迅速に追加し続けているからである。

このような網羅性と速報性は、何といっても管理責任を担う両氏の大きな尽力によって実現されている。さらにデータベースに登録される情報の質自体も、ここ数年で明らかに詳細さを増している。たとえば、Mémoires concernant l’histoire, les sciences, les arts, les moeurs, les usages, &c. des Chinois(1776-1814, 以下MCC)は全17巻(最後の2巻はやや性質を異にするが)からなる宣教師の報告集だが、現在では1巻ごとの書誌が確認できるようになっている。そもそもMCC自体も、少なくとも十数年前は所蔵機関に出向いて見せてもらうのが唯一の手段だったが、現在では色々なデジタルアーカイヴで公開されており、信じられないほど便利になった。

ただし、これには考えさせられる側面もある。研究者にとって自らが金銭や労力をかけて集めた情報は貴重な資源である。考えてみれば、このような資源を「持てる者」と「持たざる者」に分かつのは、研究者の能力だけでなく、社会的地位や経済力でもある。しかしCCT-Databaseが現在の勢いで充実度を増していけば、「持てる者」と「持たざる者」の隔たりは一定程度、狭まるだろう。それと同時に、研究の重点がますます史料収集の「その先」へ移っていくことも見据えなくてはならない。

(3)現時点での問題点と今後の展望
ただし本データベースが現状で完全だというのではない。第一に、言語的な偏りには言及しておく必要があるだろう。現在もっとも充実しているのは中国語、英語、西ヨーロッパ諸言語の文献だが、ほかの言語に関してはやや充実度が劣る。この点に対してスタンデルト氏によれば、現在チェコ語やロシア語などの文献の登録を進めているところとのことで、今後が期待される。なお氏は日本の研究にも目配りのある研究者であり、日本語著作の登録もとくに最近は進んでいるものの、未収録のものもある。この問題に関しては、現地の研究者もデータベースを利用するだけでなく情報提供に協力することで、改善を期する必要があろうかと思う。

なお既発表論文など、追加したい文献の情報は、[CONTACT]のフォーム(http://heron-net.be/pa_cct/index.php/Contact/Form)を使って提供することができる。その際、著者名、文献タイトル、所収雑誌などの巻号、出版社、出版地、出版年、掲載ページ、総ページ数、要旨などを、原文と英文併せて送る必要がある。なお日本語著作の場合は、著者名や文献タイトルのローマ字音写も付けるべきである。できる限り制作側の負担を増やさないことを心がけたい。

第二に、本データベースが現在まで登録対象としてきた史料は、出版されたものが主であり、宣教師の報告など手稿の調査には向いていない。しかしこの点に関しても、今後大きな変化があるかもしれない。何故ならスタンデルト氏によれば、今後は手稿史料の登録も視野に入っているとのことだからである。これが進めば、膨大かつヨーロッパ各地に分散した手稿の横断検索が可能になり、史料調査の効率化という点では大きな向上が見込まれる。もちろん、海のものとも山のものともしれない紙の束を闇雲に漁ってみることで、はじめて得られる意外な成果というのもあるので、効率化にも色々な側面があるかとは思う。

ルーヴァンカトリック大学フェルビースト研究所(FERDINAND VERBIEST INSTITUTE)内に保存された天球儀
撮影:王雯璐

2.検索の基本と注意点――マテオ・リッチ(利瑪竇)『天主実義』を例として
中国キリスト教研究に関して、CCT-Databaseが必需のデータベースであることは間違いない。但しこのデータベースはややクセがあり、使い方には若干のコツが要る。詳細は検索画面のメニューにある[Search Tips](http://heron-net.be/pa_cct/index.php/About/Help)を確認されたい。ここでは実例を使って検索の基本と注意点を述べてみたい。とはいえ紙幅の都合もあるので、ここでは明代の在華イエズス会士マテオ・リッチ(Matteo Ricci, 漢名は利瑪竇)による漢訳教理書『天主実義』を例として、見てみることにする。

まず入り口として、基本的な画面の説明をしておこう。
まずCCT-Databaseのトップ画面(https://www.arts.kuleuven.be/sinologie/english/cct)にはデータベースの概要についての説明がある。そして画面の五分の一ほどのところにある [CLICK HERE TO ACCESS CCT-DATABASE]のボタンをクリックすると、検索用画面(http://heron-net.be/pa_cct/index.php/Search/advanced/ccts)へ移動する。

検索方法は、大きく[BASIC SEARCH(基本検索)]か[ADVANCED SEARCH(詳細検索)]に分かれる。[BASIC SEARCH]の検索フィールドは[Title][Author][Any word][Source type][Category][Year]がある。[ADVANCED SEARCH]を選択すれば、より多様なフィールドが現れる。

次に検索結果の画面は、著者名、作成/出版年、出版地、体裁などの基本情報に始まり、その後に関連する詳細情報が挙げられる。例えば『天主実義』の場合、別タイトル(『西来義』『天学実義』)、作成・出版に関わった士大夫ら(李之藻、馮応京、汪汝淳、顧鳳翔、周献臣など)、翻刻版や影印版の書誌、初版以降に出た20種以上の版本、他言語への翻訳、世界各図書館や文書館の所蔵状況、『天主実義』の書誌情報が掲載された目録等の文献、CCT-Databaseにおける分類(05.03.02. Missionaries: Jesuits S.J.: Matteo Ricci; 10.02. Theology: Catechetics; 10.03. Theology: Apologetics; 12.05. Arts, crafts and language: Manchu)、そして『天主実義』に関わる先行研究著作の情報からなる。
なお研究著作の場合は、基本情報に加えて要旨が掲載される場合もある。また関連する史料とリンクで紐づけられてもいるため、大まかな内容を把握することが可能である。

さてここからは、実際の検索例を通して、より効率的な使い方について考察してみたい。なお、より汎用性のある[BASIC SEARCH]に絞り、(1)タイトル検索、(2)キーワード検索、(3)人名検索を試してみることにする。

(1)タイトル検索
まず[Title]に、ピンイン、繁体字、簡体字、日本の常用漢字で入力してみよう。なお以下は全て、2019年11月1日現在の検索結果である。

検索フィールド[Title]

「部分一致検索」「ピンイン」「一音節ごとにスペースを空ける」という条件のとき、もっとも多くの文献がヒットするのは予想通りだろう(但し、当然ながら『天主実義』とは無関係の情報も膨大に出てくるので、選り分けが必要である)。しかし漢字で「天主」のみ入力した場合、1件しかヒットせず、しかも『天主実義』原本の情報にたどり着けないのは、やや意外である。また全文一致であれ部分一致であれ、一音節ごとにスペースを空けない(Tianzhu shiyiやTianzhu)場合も、原本の情報はヒットしない。

総合すると、漢籍のタイトル検索に関しては、①ピンイン、②1音節ごとにスペースを空ける、③全文一致、という条件が揃っていると、目指す文献に対してもっとも精度が高く、かつ関連する研究著作なども比較的多くヒットする、といえる。
但し注意も必要である。なぜなら上記①~③の条件が揃っていても、ヒットしない文献もあるからである。つまり、できる限り網羅的に調べたいなら、ピンインでの検索のみでは不足であり、併せて繁体字、簡体字、常用漢字での全文一致検索も試す必要があるということだ。

(2)キーワード検索
次に検索フィールドを[Any word]に変えてみよう。結果一覧は以下の通りである。

検索フィールド[Any word]

タイトル検索と、全体的な傾向はほぼ同じである。但し当然ながら、ヒットする件数はタイトル検索よりもやや多い。これは、文献タイトルに『天主実義』の名が無くとも、要旨に『天主実義』への言及がある文献なども含んでいるからである。つまり『天主実義』関連の文献をより十全に調べようと思えば、キーワード検索も試してみる価値があるということだ(とはいえ部分一致検索は、出てくる文献が多すぎたり、逆に出てくるべき文献が出なかったり、といった現象が生じるので、確度の高い全文一致検索から試したほうが良いようである)

(3)人名検索
最後に[Author]のフィールドを試してみよう。これもやや注意が必要である。『天主実義』の作者リッチで検索してみる。結果の一覧は以下の通りである。

検索フィールド[Author]

注意が必要なのは欧文で入力する場合である。一般的な「名+姓」の順番では3件しかヒットしない。これは名と姓の中間にカンマを入れても同じである。欧米の人名を検索する場合、アルファベットで「姓+名」(中間にカンマもしくはスペース)もしくは漢名で入力するのがもっとも確度が高いようである。なお日本人の著作を検索する際も、ローマ字ならば「姓+名」での入力が妥当である。

ところで宣教師の名前で検索する場合、リッチならイタリア語のRicci, Matteoだけでなくラテン語のRiccius, Matteus、英語化したRicci, Matthewなど複数の表記が存在する場合が多く、どれを入力すべきか迷いやすい。傾向としては前掲のHandbook of Christianity in Chinaとの一致性が高く、基本的にはHandbookを標準とすれば間違いは無さそうである。

上記は使い方のほんの一例であり、到底CCT-Databaseの価値を十分伝えることはできない。もし中国のキリスト教について多少でも分からないことや、気になることがあれば、ぜひこのデータベースに問いかけてみてほしい。何度か使ってみれば、コツはすぐにつかめるだろう。もしかしたら思わぬ掘り出し物があるかもしれない。ぜひその豊かな内容を通して、中国キリスト教の世界の広がりに触れていただけたらと思う。