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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【世界の図書館から】上海図書館(中国)

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荻恵里子

京都府立大学大学院文学研究科博士後期課程(サントリー文化財団鳥井フェロー)

筆者はサントリー文化財団から2014年度後期「若手研究者による社会と文化に関する個人研究助成」(鳥井フェロー)の助成を受け、2016年3月末に約一週間上海に滞在し、上海図書館で調査をおこなうことができた。

上海図書館は1952年に建立され、1958年に上海歴史文献図書館・上海市報刊図書館・上海市科学技術図書館と統合、1995年には上海科学技術情報研究所と合併して現在にいたっており、中国国内最大規模の公共図書館としてつとに有名である。

中国近代史の研究者にとって上海図書館といえば大変なじみの深い図書館で、清末の政治外交史関連なら、例えば、李鴻章の部下にあたる盛宣懐の檔案の大部分を収蔵しており(詳しくは王宏「上海図書館が収蔵する盛宣懐檔案についての概述」『史資料ハブ 地域文化研究』7、2006年を参照)、光緒帝の師傅であった翁同龢の関連史料・日記の稿本なども収蔵されている他、上海古籍出版社より出版されている上海図書館歴史文献研究所編『歴史文献』の一連のシリーズ発行などをおこなっている。このように収集・整理・公開と積極的に活動している図書館であり、筆者も論文にその公刊史料を使用していて、普段からなにかと恩恵に浴している。

研究内容によっては上述のような公刊史料を日本で見るだけで足りることも多いが、例えば出使日記の1つとされる張蔭桓『三洲日記』のように、版本の異同があって研究上問題となる場合があるなど(詳しくは岡本隆司・箱田恵子・青山治世『出使日記の時代』名古屋大学出版会、2014年を参照)、図書館に直接足を運んで史料を確認するという作業はなお不可欠である。もちろんまだ公刊されていない史料も数多くあり、史料状況として全体を把握することも難しい(目録については6部分で後述)。筆者はそうした状況も確認するべく図書館を訪れた。その際、主に図書館2階の古籍閲覧室及び3階の「新閲読体験」ルームを利用したので、ここでは特にこの二カ所について現時点での利用方法を紹介したい(1~5)。

1.カード(読者証)の作成

上海図書館は上海地下鉄10号線「上海図書館駅」を降りてすぐの場所にある。正面入り口(図書館の写真)から入ると、地下鉄同様の簡単なセキュリティチェックがあり、正面にエスカレーター、左手にロッカールーム、斜め右手に「办证处」がある。初めて訪問する場合は、この「办证处」でまず「読者証」を作成する必要がある。カード作成は毎日8:30-16:30に行うことができ、無料である。エスカレーターの裏にあるパソコンから名前やパスポートナンバーなど必要事項を入力し(住所には中国での滞在先を入力)、出力された用紙とパスポートを「办证处」窓口に提示すればすぐにカードが発行される。受け取ったら忘れないうちに、カード裏面のサイン欄に中国語表記で名前を記入しておこう。

2.ロッカー利用時の注意点

古籍閲覧室には鞄類を持って入れないため、カード作成後にロッカールームで荷物を預ける必要がある(無料)。ロッカールーム入ってすぐのところにはスタッフがおり、そこにカードを差し込む機械(クレジットカードを差し込むような形状のもの)があるので、まずカードを差し込む。その後、空いているロッカーを選んで荷物を預けることになる。ただ、これが問題で、ロッカーの使い方が独特であるために、初めて利用する際にはわかりにくい。実際に利用する読者の便宜を図るため、以下に特に記しておく。

  • 空いているロッカーがあるかどうかの判断は、ブロックごとに液晶画面で確認できるようになっているので、まずは空きがあるブロックを探し、液晶画面下にある赤いボタンを押す。するとバーコードが書かれた紙が出てくると同時にロッカー1つが開くので、そこに荷物を入れる。この時、一度しめると2分間は開けられず、一度開けてしまうと次に赤いボタンを押して開くのが同じロッカーとは限らない仕組みになっている。(つまり、ロッカーを閉めるときは使うもの全てを取り出してから閉めること、また、荷物のなかから一部分を取り出すためにロッカーを開ける際は、一度荷物全てを出してロッカーを閉め、新たにロッカーを開けなおさないといけない、ということになる。バーコードは1枚ごとに一度限り使用できるものなので、使い終わったらすぐに破棄しておく方がよい。)
  • ロッカーを開ける際は、バーコード発券口の上にバーコードを読み取る部分があり、そこにバーコードをかざすことで開けられる(バーコードの紙をロッカーの中に入れてはいけない!)。大きさはリュックが入る程度なので、キャリーケースは入らないと思われる。

なお、古籍閲覧室へはノートパソコンの他に、本やノートの持ち込みも可能である。筆記用具については、筆箱ごと持って入ってもよいものの、鉛筆かシャーペンを使用されたい。また、筆者は春物のコートを着用していたが、着たまま入室することもできた。

3.古籍閲覧室での閲覧方法

エスカレーターで2階に上がり反対側へ回り込んだところに「古籍閲覧区」がある。最初に、区画に入ってすぐ左側にある「古籍出納台」に行き、カードを機械(ロッカールーム同様)に差し込み、カードを預けて代わりに金属製の番号札(「銅牌」)を受け取る「発券」をおこなう(11:30-13:00は、退室はできるが「発券」はできない)。利用する日ごとにこの「銅牌」の番号を覚えておき、閲覧室に入ってすぐのところにいるスタッフに渡す。

古籍を出納する場合、パソコンで検索するか図書カードを見て「历史文献阅览单」(「古籍出納台」で入手できる)に必要事項を記入し、「古籍出納台」に渡す。この時「阅览证证号」の覧には「銅牌」の数字を記す。一度に出納できるのは4種の古籍までで、返却しないと別のものを新たに閲覧することはできない。また、11:15-13:00は史料の出納ができない(すでに出納した史料や閲覧室内外のパソコンの閲覧は可能)ので、出納を申請する場合は8:30-11:15ないし13:00-16:15の間におこなう。原物が出納される際は閲覧室内のスタッフから「銅牌」の番号で呼ばれる。

古籍は善本と普通本に分けられており、善本は特別な理由がない限り原物を閲覧することはできず、閲覧したい場合は理由を添えて図書館に申請し、許可を得なければならない。また、天候が曇ないし雨天の場合は出納してもらえない(普通本は天候にかかわらず出納可能)。電子化されて館内のパソコンから画像で閲覧できるものもあるので、まずは館内限定の検索サイトで検索してみる必要がある(館外からアクセス可能な検索サイトは「上海图书馆-古籍书目查询」http://search.library.sh.cn/guji/だが、これとは別にある)。ちなみに、画像の閲覧は館内備え付けのパソコンであれば古籍閲覧室に設置されているもの以外でも可能だが、閲覧できるのは古籍閲覧室の開館時間内に限るようである。

16:30には閲覧している古籍の返却を求められる。その際、数日続けて同じものをみたい場合は「保留」することができ、出納にかかる時間を多少短縮できるのでスタッフに申し出るとよい。

なお、閲覧室内には備え付けのコンセント(日本と同形状)・鉛筆・鉛筆削りがあり、洋装本の『四庫全書』なども配架してあって使い勝手がよい。

4.古籍のコピーについて

コピーは本の状態などによって金額が変動する。頻繁に変更されるため、最新の情報は現地で手に入れるしかない。ただし、基本的に高額かつ現金支払いのみであることに変わりはないため、研究計画を立てる際には複写はできない前提で予定を組んでおく必要がある。

筆者が利用した2016年3月末段階では、申請できるのは月~土 8:30-11:15、13:00-16:15の間であり、善本のコピーは50元~でコピーできる分量の上限は全体の三分の一まで、普通本は一冊全部をコピーすることができるものの、版本の形態(抄本・鉛印本など)によって一枚の料金が変動し、抄本なら半葉が2.5元(つまり一枚5元~)となっていた。スキャン(PDF化)もできるが、コピーより料金は高く、土曜は受け付けていない。

コピーを申し込む際は、まず閲覧室内のスタッフに一枚あたりの料金を判断してもらって「委托复制单」に単価を記入してもらい、自分の名前もサインする。その後、閲覧室そばのコピー室で担当者に実際のコピー作業を行ってもらい、「委托复制单」に枚数を記入してもらったら、枚数や状態に応じてだと思われる作業代を支払う(計算方法は不明で領収書ももらえない。筆者は2回コピーを行い、17枚で3.8元、37枚で11.3元支払った)。次に1階の支払所(古籍閲覧区のちょうど真下にあたる場所にある「古籍出納台」に似た受付)に行き、指定されたコピー代を支払うことになる(ここでは領収書がもらえる)。

5.新閲読体験の活用

3階にあるこの部屋(開館時間は毎日9:00-17:00)では、中国国内はもとより世界各地の各種データベースを閲覧可能で、図書館のカードさえあれば有料のデータベースも無料で閲覧できる。

備え付けのパソコンのデスクトップ上にあるショートカットから、「iDoc 资源库导航」という各種データベースへのリンクが表示されるようなページにアクセスすると(このページ自体は日本からでもアクセスが可能)、館外からでもアクセス無料のデータベースが多数記載されており、いろいろと検索してみることで新たな発見もあるだろう。無料で持ち帰れる「上海図書館数字資源手冊2015版」というパンフレットが置いてあり、一覧表があって参考になった。

古籍閲覧室と併用してうまく活用すれば、上海図書館館内だけで論文を書き上げてしまうこともできるかもしれない。もちろん、毎日の食事についても図書館内・付近ともに非常に便利である。

6.目録情報など

管見の限り“上海図書館の目録”は存在しないようである。ただし善本に限れば、古籍閲覧室に配架されている、本社古籍影印室輯『明清以来公蔵書目彙刊(全六十六冊)』(北京図書館出版社、2008年)の28巻に、上海図書館編「上海図書館善本書目 五巻」(1957年鉛印本)が所収されている。

また、以下のような論文も参考になろうか。

・松浦章「在上海研究調査箚記」(『満族史研究通信』8、1999年)

・松浦章「上海図書館所蔵の檔冊について」(『満族史研究通信』9、2000年)

筆者は未見だが、民国時期(1911~1949年)の史料であれば北京図書館編『民国时期总书目』(书目文献出版社、1986年)があって、上海図書館所蔵のものが含まれているようである。

なお、古籍閲覧室の入り口付近(「古籍出納台」の向かい側あたり)にある図書カードは、四角號碼のものと四部分類のものがある。ただし、カードにはあっても3で上述した館内限定の検索サイトでは出てこないものがあったり、検索サイトでも館外で見られるサイトと館内限定のものでは同じ語で検索してもヒットするものが異なることがあるなど、癖があるようなので注意されたい。

結局、数日という筆者の短い滞在では、図書カードや館内限定の検索サイトを一部分確認し、見たいと思っていた史料及びカードから気になったいくつかの史料にざっと目を通すことができた程度であって、上海図書館の古籍閲覧室にある蔵書だけでもその全体像をつかむには到底及ばなかった。現状の所感としては、筆者の研究対象である総理衙門関係の史料で、6に述べた松浦氏の論文で挙がっていないものもあり、電報に関する規定集など日本ではほとんど見られない面白い史料の存在も知ることができたので、公刊されているものと合わせてみればこれまでとは違った史料の見方・使い方が可能であるように思われた。研究に必要な史料をもれなくおさえるためにも、また上海図書館に足を運ぶことになりそうである。

なお、筆者は今回上海図書館を利用するにあたって、現地で史料調査中であった大阪府立大学(日本学術振興会特別研究員PD)の佐々木聡氏にお世話になった。佐々木氏の専門は宗教文化史であるので、筆者とは専門分野の違う読者にとって有用な史料もあると推察できる。上海図書館は中国内では一・二位を争うくらい、外国人にとって利用しやすい図書館である。海外での調査に慣れていない読者でも十分に活用可能であるため、不安な場合は筆者のように先輩・友人の協力を得るなどしてぜひ訪れてみて欲しい。

図書館ウェブサイト

http://www.library.sh.cn/

http://www.library.sh.cn/Web/home.html(日本語版)

入館・閲覧に必要なもの

パスポート(「読者証」作成時)、読者証(ロッカールーム・各閲覧室利用時)

開館日時

古籍閲覧室は月~土 8:30-17:00(ただし善本の閲覧は月~金 8:30-17:00)。その他閲覧室ごとに異なり、毎日8:30-20:30の閲覧室も多い。国定祝祭日は短縮時間となるため要確認のこと。

その他

「読者証」を作成する際に入力するデータに必要なので、中国での滞在先住所(ホテルならホテルの住所と部屋番号)を控えておくこと。カード作成は無料(有効期限なし)だが、必要ならば有料で通常の図書が貸借可能なカードにすることもできる。古籍閲覧室は写真撮影不可でコピーも高額であるため、複写はできない前提で予定を組むこと。また、天候が曇ないし雨天の場合、善本の閲覧はできない(普通本は可)。