【世界の図書館から】ベトナム国立社会科学図書館

社会科学図書館全景(青い建物)

 グエン・ヴァン・ティン(Nguyễn Văn Thịnh)
ベトナム社会科学通信院

*澁谷由紀(U-PARL特任研究員)訳

ベトナム社会科学通信院(Institute of Social Sciences Information, Viện Thông tin Khoa học xã hội)管轄下のベトナム社会科学図書館(Social Sciences Library , Thư viện khoa học xã hội)はベトナムに5館ある国立図書館のうちの1館で、社会科学分野の図書館としては随一の図書館である。同図書館の設立は1968年であるがその歴史は事実上1968年以前にさかのぼる。同図書館は1957年にベトナムがフランス国立極東学院(EFEO、École française d’Extrême-Orient 、1991年設立)の多量で貴重な資料を継承したことにより設立されたからである。

 

I. 設立の経緯

- ベトナム社会科学図書館の前身はフランス国立極東学院である。
- 1898年12月15日、インドシナ総督ポール・ドゥメールはインドシナ考古調査団(Mission archéologique permanente en Indo-Chine)をインドシナに創立せしめ、インドシナ総督府の直属機関とし、学術面では碑文文芸アカデミー(Académie des Inscriptions et Belles-Lettres)の監督下に置いた。1900年1月20日、インドシナ総督はインドシナ考古調査団をフランス国立極東学院と改称した。1901年2月26日、フランス大統領エミール・ルーベ(Émile Loubet)は正式にフランス国立極東学院から公認された。

フランス国立極東学院の目的は

1) インドシナ半島の歴史、芸術作品、土着言語に対する理解に便宜を図ることでインドシナ半島の考古学および言語学を推進すること。
2) インド、中国、マレーシア、日本等、近隣地域・近隣文明に対する博物学研究に貢献すること。

1920年4月3日、ポール・デシャネル(Paul Deschanel)はインドシナ半島と東洋各国を対象にした歴史学、考古学、言語学、民族学、地理学、及び人文学の研究をフランス国立極東学院の任務に定めた。当時のフランス国立極東学院の機能は、

1) フランス国立極東学院の博物館と図書館を通じ、インドシナとインドを含む極東地域に対する考古学、文献学、民族学、歴史学、宗教学、国家体制、言語および文学の研究に貢献する。
2) 資料を通じて当該地域の言語に関する知識を普及させる。
3) インドシナ地域の歴史建築物の保存に注意を払う。

フランス国立極東学院の一部に図書館を含むという規定は1901年2月26日に明記された。1905年5~6月より、フランス国立極東学院図書館はハノイ市のリートゥオンキット通り26番地に置かれた。

フランス国立極東学院図書館のコレクションは、インドシナ各国で購入・収集された資料(写本制作によるものも含む)、世界各地の各図書館、大学、学術組織との交換によって形成された。価値の高い代表的資料は下記のとおり。

+グエン朝の内閣文庫の複写
+神社、仏教寺院、村落、親族集団に関する資料を書写したもの
+モンゴル、チベット、ミャンマー、中国から持ち帰られた貴重書、碑文の拓本、古地図等。
+文化遺産を撮影したネガフィルム、ポジフィルム。

-1949-1950年にフランス国立極東学院図書館の所有資料はフランス、ベトナム、ラオス、カンボジアの4か国に分けられた。
-1957年末、フランス人はハノイに存在した財産を独立ベトナムに引き渡した(教育省が管轄することになる)。
-1960年2月6日、ベトナムの政府首相は040-TTg決定により、フランス国立極東学院図書館をもとに中央科学図書館を開館させた(国家科学委員会が管轄)
-1968年4月、中央科学図書館は、2つの図書館に分離した。

+中央科学技術図書館(国家科学技術委員会が管轄)
+社会科学図書館(国家科学委員会が管轄)

フランス国立極東学院図書館のすべてのコレクションは社会科学図書館が引き継ぐことになった。

これより、社会科学図書館の主な機能は、「情報科学」の機能と「伝統遺産の保全、活用、発揮」の機能、および図書館を国家図書館として発展させる機能、となった。

-1982年2月、漢喃古典資料・資料1万1,167冊が漢喃研究員に移管された。
-現在までに、図書館のコレクションはおよそ100万点に上り、図書50万冊、ベトナム語と外国語の新聞・雑誌2,000タイトル以上を所蔵し、コレクションは拡大中である。

図書閲覧室(403号室)

II. コレクション

1. 郷約(村落の掟)

1945年までに書かれた郷約5,416(うち漢喃文の郷約が1.225)。ベトナムの6,000以上の村々から収集されたもの。

2. 神跡・神勅(神社の神体)コレクション

13,211巻、ベトナムの9,000の村から収集された手稿。

神跡・神勅庫

3. 漢喃コレクション

2,050冊、とりわけ貴重なものとして、『大越史記全書』(24冊)、『三蔵経』(4.826冊)、『大南實錄』(560冊)、越南法典等。内容は主に宗教、哲学、歴史、事典である。

4. 勅封(皇帝が村落の神社に対して認定を与える文書)コレクション

396葉現存し、200-300年前の勅封も多い。最古の勅封は400年前のもので弘定10年(1610 年)6月17日の日付が記されている。

5. ラテン文字古書コレクション

成立後1世紀以上のコレクションで、3万3,316冊ある。OPAC登録レコード数は4万440に達する。世界各国の60言語以上で出版された資料で、その多くはフランス語、英語、ドイツ語、オランダ語及びベトナム語で書かれている。資料の主題は40か国以上、主題分野は幅広い。1576年、1583年、1595年に出版された3冊の図書、1610年、1633年、1685年、1688年に出版された4冊の本がある。

6.ラテン文字新コレクション

1957年以降受け入れのラテン文字資料である。総計5万965巻あり、英語、フランス語、ドイツ語、ルーマニア語、オランダ語等の資料である。

7. 日本コレクション

相当に規模の大きいコレクションである(1万1,000冊)。主に明治、大正時代から昭和初期にかけて出版された。特に貞観年間の869年に出版された『続日本紀』(10集)が著名である。多くは写本であり、一部現代の図書がある。図書資料の中心は、宗教(仏教、神道、武士道)、文学・芸術、民族学、考古学等をテーマにしている。

8. 中国古書コレクション

古典漢字で書かれた資料で、多くは辛亥革命(1911年)以前に出版されたものである。主に乾隆年間(1736-1795年)の資料が多い。4,445部(類)30,852冊(点)、人文・社会科学を扱う。貴重書に、『永楽大典』(66巻)、『康熙字典』(12巻)『大蔵経』(419巻)、『呂氏春秋』(29巻)がある。

中国古典籍庫

9. 中国現代語コレクション

1958年から現在までに収集された資料で、1万1.813冊ある。政治、経済、文化、歴史、法律等の社会科学分野の研究が主である。

10. 写真コレクション

現在、10万3,612葉(うち、登録済み5万9,838葉、未登録4万3,774葉)あり、ベトナム、ラオス、カンボジアおよびいくつかの東アジア、東南アジア各国の歴史、国土、人々を撮影したものである。多くの写真は100年以上前に撮影されている。

11. 古絵画コレクション

107点、5巻。神社、仏教寺院、廟を描いたものや、民間絵画がある。

12. 映像コレクション

統計によれば、映像コレクションには下記が含まれる。

シートフィルムおよびガラス製乾板2万5,750枚
OHPシート3,107枚
マイクロフィルム5,776リール

これらは保管価値の高いもので、多くは漢喃資料である。

マイクロ資料庫

13. 古地図コレクション

+3,137種の地図(一枚もの、もしくは複数葉で構成されているもの)、ベトナムのみならず世界の多くの国々の領海、領土の発展の歴史の痕跡、地理の全容もしくは詳細が記されている。
+Chine Olin Sinarum Regions nowa de Jeriptio auo foreという署名のある1584年出版の地図。
+ハノイの1831年の地図
+1884年の大南国画図

14. 音盤コレクション

歌、劇、外国語学習に関する944の音盤がある。

15. ロシア語コレクション

8万3,000冊、主に1970年代以降に受入されたもの。主にマルクス・レーニン主義の教義や、(共産党)文献、(共産党)大会関係書籍、社会科学分野の専門参考書、特に教科書と辞書がある。

16. ロシア語雑誌コレクション

1971年以降に受入されたもので、創刊号から継続受入しているロシア語雑誌が400タイトルある。ソビエト連邦とロシア連邦の研究所、大学、組織、協会が発行したものである。

17. 新聞・雑誌コレクション

雑誌21万7,611タイトルと、各国言語の41万2,250タイトルの新聞がある。現在までに新聞、社会科学分野の雑誌の点数は100万を超える。

定期刊行物で最も古いものは、1717年発行の歴史・文化研究雑誌であるMemoires de litterature, tirez des registres de l’Academie Royale des Inscriptions et Belles Lettres(Académie Royale des Inscriptions et Belles-Lettres)(創刊1717年、廃刊1951年)である。

新聞・雑誌閲覧室(804号室)

18. ベトナム語図書コレクション

6万4,996冊。

19. ベトナム語雑誌コレクション

213タイトル(3万点)、うち136タイトルは継続受入中、77タイトルは受入停止中である。

20. 専門資料群

-ベトナム南部発行の図書コレクション、総計2.894冊(1955年から1975年にかけてベトナム南部で発行された図書)
-ベトナム語特別コレクション、75点、手稿もしくはタイプライター打ちの草稿。

21. 個人文庫

文学者グエン・ヴァン・トー(Nguyễn Văn Tố 、1889-1947年)の図書322点、医師で人文社会科学研究者のグエン・カック・ヴィェン(Nguyễn Khắc Viện 、1913 – 1997年)の図書483点。

22. アメリカ資料コレクション

ベトナム社会科学図書館とアメリカとの協定により1995年3月6日に設置されたコレクションである。

このコレクションは総計3,000冊で、アメリカ作家協会、The Christopher Reynolds Foundationのほか、Hellen Muller氏、Cornell氏、イエン・ブイ(Yến Bùi氏)等の個人の寄贈によって形成された。

23. 世界銀行資料

世界銀行から2015年7月に寄贈されたもので、現在6,203冊ある。

24. 内部刊行物

上記の資料のほか、社会科学通信院が研究、出版した資料を所蔵している。

―ベトナムの科学機関の中でも定期刊行物の所蔵は随一である。資料の一例は下記の通り。

+『社会科学通信』(ベトナム語版、英語版)
+研究用資料(年間100号)
+国内外の『社会科学通信年鑑』
+自院出版の数百タイトルの各種の図書。

―なお、毎年、社会科学通信院は20-30の基礎レベルのプロジェクト、3-5の省レベルプロジェクト、1-3の国家レベルのプロジェクトを展開している。

 

 III. 国際関係と発展の方向性

-社会科学図書館はロシア、中国、フランス、アメリカ、日本、インド、イギリス等30ヵ国80施設の情報センター、図書館、大学と正式な関係を締結している。またトヨタ財団、アジア研究財団(韓国)フォード財団、Christopher Reynolds Foundation、テンプル大学、CIDA(カナダ)、INASP(英国)等と正式な関係を締結している。
-IFLA、APINESS (Asia-Pacific Information Network in Social Science)、CONSAL (Congress of Southeast Asian Librarians)に加盟している。

1. 利用案内

利用資格は行政職員、研究者、教員、社会科学に関する知識の普及を行う者、社会活動家、学生(大学1年生以上)及び資料を必要とするすべての組織と個人である。

利用者カード申請に関する手続きは下記のとおり。

手続き

+人民証明書、学生証(学生の場合)、有効期限内のパスポート(外国人の場合)等の身分証明書。
+勤務先、修学先、居住先の紹介状(giấy giới thiệu)。
+写真2葉(3×4cm)、利用料。

利用者は上記の書類を、1B棟の4階403号室(利用者サービス係)に持参し手続きを行う。

利用者は手続き終了後、即日図書の閲覧が可能である。館外持ち出しは不可。

複写を希望する場合、閲覧カウンターの司書に申請する。

2. 開館時間

-月曜から土曜(金曜午後を除く)の下記の時間。

+午前8:00-12:00
+午後13:30-16:30

図書館では飲料水と無線LANを利用者に提供している。

3. 交通

ハノイ市中心部(ハノイ中央郵便局)から西におよそ4km、日本大使館からは北に500mである。ホアンキエム湖からは09番バスを利用。バス停は図書館正門前にある。

4. 図書館周辺のサービス

図書館建物内に食堂があり、ベトナム料理を食べることができる。そのほか、周囲にはたにし麺、焼き肉つけ麺、牛のうどんなど、ベトナムのローカルフードを提供する食堂が多く存在する。静かで、伝統的でありかつモダンなカフェも多い。

5. 電子サイト

詳細、資料の検索は下記のウェブサイトから可能。

http://issi.vass.gov.vn/

OPAC
http://opac.issi.vass.gov.vn/