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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【世界の図書館から】トルコ大国民議会図書館(トルコ)

トルコ大国民議会図書館
The Library of the Grand National Assembly of Turkey
Türkiye Büyük Millet Meclisi Kütüphanesi

大国民議会図書館閲覧室

日本貿易振興機構アジア経済研究所
能勢美紀

筆者は2018年12月にトルコ大国民議会図書館を訪れ、図書館長はじめ、幾人かの職員の方と面会する機会を得た。また通常の閲覧利用では見ることのできない書庫をはじめとする図書館の「裏側」まで見学することができた。そこで得た情報について共有したい。

◎来歴
トルコ大国民議会図書館は、現在のトルコ共和国議会の前身にあたる「大国民議会」の成立(1920年)とほぼ同時に、議会の附属図書館として設置された歴史ある図書館である。図書館は国会(「トルコ大国民議会」)と同じ敷地・建物内にあり、開架式の閲覧室に加え、4階からなる地下書庫をもつ(閲覧席を囲む壁面書架が2階建てとなっており、階段を利用して上る。閲覧席部分は1階で吹き抜けのようになっている。)

図書館とは直接関係ないが、2016年の「クーデター未遂事件」で国会議事堂は爆撃をうけたが、その際に被弾した建物の一部はそのまま残されており、モニュメント化されていた。

大国民議会図書館外観クーデター跡

トルコ大国民議会図書館の役割は主に以下の2点である。

1. 議会運営、国家運営のための補助・貢献

2. 納本図書館(トルコに6館あるうちの1館)

図書館の役割に準じて申請なしに利用できるのはトルコにおいて以下の5つの地位にある者のみとなっている。

1. 国会議員 2. 元国会議員 3. (議会で働く)職員 4. (議会で雇用された)専門家 5.(議会で雇用された)アドバイザー

※4. および5. については、日本の諮問機関委員等の立場の人が該当すると思われる。

また、1から5のそれぞれの身分によって、貸出冊数や期間等に違いがあり、国会議員が最も優遇されている、とのこと。

したがって、日本から訪問し、同図書館を利用するためには「利用方法」に記載の事前申請が必要となる。

◎利用方法
議会の関係者以外は事前申請が必要。トルコ大国民議会図書館のウェブサイトに申請フォームはあるが、トルコのアイデンティティNo. が入力必須項目になっており、トルコ国籍所持者以外はここからは申請できない。

そのため、筆者はウェブサイトに掲載されていたメールアドレス(kutuphane@tbmm.gov.tr)にトルコ語で閲覧を希望の旨、メールした。すると、以下の3点の書類をemailで送付の上、原本を持参するよう返事があった。

1. 申請書(Başvuru dilekçesi)。自筆のサイン要。

2. 身分証のコピー(Kimlik fotokopisi)

3. 所属先の推薦状(Okul ya da işyerinden alınan belge)

※筆者は1. 申請書 については、ウェブサイトの申請フォームの事項を参考にトルコ語で作成、3. は所属先に英語で作成を依頼した。

(筆者はトルコ語で連絡したが、英語でも対応してもらえるのではないかと思う。)

実際の訪問の際は、トルコ大国民議会議事堂への訪問と同様のルートを通り、図書館へ行くことになる。

まず議事堂の敷地へ入るためにセキュリティーチェックがあり、そこを通ると「受付」の建物がある。ここでもう一度セキュリティーチェックを受け、その先で訪問先と目的、アポイントメントの有無を聞かれる。(アポイントメントがないと基本的には入れない。)アポの確認が取れるとパスポートを受付に預け、入場を許可される。筆者ははじめての訪問であったことから、受付の女性が図書館まで案内してくれた。

図書館につくと、図書館の受付がある。ここでは通常の利用の場合は利用目的と氏名を確認している、とのことだった。

大国民議会図書館入口

◎所蔵資料
司書の方によると、議会図書館として、蔵書構築は基本的に「議員/議会にとって有用なもの」という基準で行われているそうである。司書が選書するものに加え、議員からの要望を受けて購入する資料も多いとのこと。

特にトルコ全土から選出される代表議員のため、地方紙の購読に予算の多くを割いているとのことで、トルコの行政区の最小単位であるkasabaを除く地域版を購読しており(ただし、該当するすべての地方版を購読しているわけではない模様)、おおよそ40紙にのぼる、とのことだった。

また、1920年に設立された歴史ある図書館だけあって、オスマン朝末期から共和国初期の時代に刊行された雑誌・新聞(多くはオスマン語)のほとんどを所蔵している。これらの資料の利用はあまり多くないとのことだったが、所蔵していることがそもそもあまり知られていないように思い、少しもったいなく感じた。

また、議会図書館であるため、議事録等の議会関連文書も当然所蔵している。大国民議会の議員以外の研究者、学生等にとって重要な資料としては以下のものが考えられる。

1.議事録(各委員会レベルまで整理・公開)

2.国会議員名簿(データベース有)

3.選挙登録名簿(データベース有)

4.法律・規約集(データベース有)

5.歴史的政治文書・機密文書(裁判記録含む)

現在は、1-4については、ほとんどのものが電子化の上、公開されており、案内してくれた図書館員の方も「昔は研究者がたくさん来ていたが、電子化してからぐっと来館者が減った。ただ、より多くの人が便利に使えるようになったのはよいこと。」と話していた。5については以下「デジタル資料」で詳述する。

◎デジタル資料
上記「5. 歴史的政治文書・機密文書(裁判記録含む)」に関して、現在、トルコ大国民議会図書館では、過去(独立戦争期から共和国初期)の政治文書(オスマン語)をラテン文字転写のうえ公開する、アーカイブズ・プロジェクトがすすめられている。複数の文書群についてプロジェクトが進められているが、ここではこのアーカイブズ・プロジェクトの第1弾として選ばれ、現在も作業が進められている「独立法廷文書」について紹介する。

筆者は「独立法廷文書」がアーカイブズ・プロジェクトに選ばれていると知り、資料への容易なアクセスの実現を期待すると同時に、特に原本の扱いについて不安を抱いていた。長くなるが、独立法廷文書の概要とともに、今回の調査によって明らかになった資料の扱いについて報告する。

〈独立法廷文書とは〉
「独立法廷(İstiklal Mahkemesi)」は、1920-1927年の間、トルコの主要都市に設置された「特別法廷」である。もともとはトルコ独立戦争期の「戦時法廷」で、 捕らえた敵の兵を迅速に処罰するためのものであったため、「議会の承認なしの刑の執行権を持つ」ことが最大の特徴と言える。本来は「戦時法廷」だったが、実際は共和国成立(1923年)以降も存続し、残兵の処罰のみならず、ムスタファ・ケマルの政敵駆逐に貢献したとされている。このように、「独立法廷文書」は、建国の父であるムスタファ・ケマルおよびトルコ共和国の成立過程の正当性に疑義を投げかけるような内容を多く含むであろうことが容易に想像できることから、トルコ近現代史にとって非常に重要な史料でありながら、資料の存在そのものがほとんど明らかにされてこなかった。トルコ大国民議会図書館に所蔵があること自体知る人はほとんどなく、また、閲覧に際しては国会議長の承認を必要とする。管見の限り、この独立法廷文書の閲覧・調査を許されたのは、9月9日大学(Dokuz Eylül Üniversitesi)のアイバルス教授ただ一人であり、アイバルス自身もその著書の中で独立法廷文書を閲覧することの難しさと自身の苦労について言及しているほどである(※)。アイバルスは、トルコ共和国成立期の共和国史研究の第一人者とも言える研究者で、彼ほどの人物でも閲覧が難しかったとなると、一般の研究者、特に日本人研究者がこの資料にアクセスできる可能性はほとんどないと言わざるを得ない。

※独立法廷文書を閲覧する困難さについては Ergün Aybars, İstiklal Mahkemeleri (İzmir: Zeus Kitabevi, 2006) に言及がある。また、独立法廷文書を用いた研究成果については、Ergün Aybars, İstiklal Mahkemeleri  Cilt Ⅰ-Ⅱ (İzmir: Dokuz Eylül Üniversitesi Yayınları, 1988) にまとめられている。

〈アーカイブズ・プロジェクトの進行状況と今後〉
そのような独立法廷文書がラテン文字化の上、デジタル・アーカイブズ化され公開される、となると、当然、どの程度までデジタル化されるのか、原本はどうなるのか、といったところが心配される。まさか廃棄、ということはないだろうが、原本は永遠にお蔵入り、ということはあり得るだろう、と筆者は考えていた。この点について、同図書館の館長に直々にご説明いただいた。

今回のアーカイブズ・プロジェクトでラテン文字化のうえ公開するのは「要旨」のみである。[裁判にかけられた/かけた人々の]遺族や親族は存命であり、センシティブな内容を含むので、資料全文のラテン文字化および原本の公開はしない。資料の閲覧は全く不可能ではないが、閲覧するためには[これまで同様]国会議長の承認が必要であり、実質的に不可能である。ただし、貴重で重要な資料であることはすべての人が認識しており、資料を廃棄することは全くあり得ないことで、責任をもって保存していく。([]内は筆者付記。)

資料の廃棄は「全くあり得ない」とはっきり述べていた点が特に印象的だった。全文公開となるまでは相当期間が必要であろうが、今後に期待したい。

「要旨」のみではあるが、プロジェクトの成果は順次刊行されている。現在、第1~5巻まで刊行済である。(6巻は作業中だが)できたところまでPDFでウェブ公開もしており、限定的であるものの、研究に利用できる状態にある。
https://www.tbmm.gov.tr/yayinlar/yayinlar.htm

◎サブジェクト・ライブラリアン
サブジェクト・ライブラリアンは存在しないが、同図書館に勤務する司書は全員オスマン語がわかるとのこと。また同館が所蔵する議会関係資料についてはどの方も詳しい。必要に応じてデータベースの利用方法なども教えてくれる。

◎カタログ・目録
目録は現代トルコ語で使用されているローマ字を使用して作成されており、(アラビア文字で表記する)オスマン語についても同様であって、アラビア文字を入力することはない。この辺りは他のトルコの多くの図書館と同様であるため、トルコでの調査に慣れている方であれば特に混乱はないかと思う。
図書館の蔵書はウェブからも検索可能である。
https://kutuphane.tbmm.gov.tr/cgi-bin/koha/opac-main.pl

また、前述の通り、大国民議会図書館は開架式の閲覧室に加え、4階からなる地下書庫(閉架)をもつ。閲覧室にあるのは直近の雑誌・新聞・参考図書といった資料に限られ、ほとんどの資料は地下書庫に所蔵されている。資料の整理体系について、閲覧室の資料はデューイの十進分類法で整理されているが、書庫の資料は独自のナンバリングで分類、整理しているとのことであった。閲覧室の資料も書庫に入る時点で独自の分類に振り分けなおすそうである。書庫に入ることできるのは図書館の職員のみで、職員が探しやすいような分類・配架を行っていることが理由だ。また少し話がそれるが、書庫にある資料は、その提供の時間も決まっている。請求があれば随時、というわけではないので、この点は利用する際注意が必要である。筆者は資料の閲覧が目的ではなかったため、特に閲覧資料の予約等はしなかったが、資料の閲覧が目的である場合は事前に相談の上、すぐに資料が利用できるよう調整したほうがよいだろう。

◎近隣の資料所蔵機関
トルコ国立図書館(National Library of Turkey / Milli Kütüphane)が比較的近くて行きやすい。トルコ大国民議会図書館の最寄り駅であるNecatibeyからメトロM2を利用して、Milli Kütüphane駅下車。出口を出るとすぐ隣に国立図書館がある。バスも多くの路線がある。バス停は同じくMilli Kütüphane。トルコ国立図書館は1946年に設立された「国民のための図書館」。トルコ大国民議会図書館同様、トルコに6館ある納本図書館の1館であり、納本に関してはメインの図書館といえる。こちらは国外の研究者が研究目的のために訪れる、というよりは、トルコの大学生をはじめとする学生たちが勉強に利用しており、いつも賑わっている。入り口には使わなくなった児童書やおもちゃのリサイクルボックスが置いてあって、ほほえましい。また、「アタテュルク資料室」があるのはトルコならでは。ムスタファ・ケマル関連の資料が1室にまとめられている。

国立図書館外観

国立図書館本とおもちゃのリサイクルボックス

国立図書館アタテュルク関係資料

 

トルコ大国民議会図書館ウェブサイト

https://www.tbmm.gov.tr/kutuphane/

住所: 06543. Bakanlıklar – ANKARA Çankaya / ANKARA / Turkey

電話:(+90) 312 420 75 45

Email: kutuphane@tbmm.gov.tr

アクセス

メトロ:M2 に乗車し、Necatibey で下車。徒歩13分

バス: Meclisで下車(路線多数)。徒歩10分

※バスは路線が複雑、かつ車内放送がないため、慣れていない場合はメトロをお勧めする。

開館時間:国会の開会時間によって変則的だが、おおむね9:30-18:30

(2019年10月28日)