【アジア研究この一冊!】岡本さえ編著『アジアの比較文化 : 名著解題』

U-PARL特任研究員
澁谷由紀


◎アジアがアジアを視る、アジアから視る、アジアを欧米から視る

本コラムで紹介する岡本さえ編著『アジアの比較文化 : 名著解題』(科学書院)は、アジアを比較文化の視点から紹介するために編纂された、アジアに関連する83冊の名著の解題集である。この83冊の名著は、貿易商、求法僧、役人、知識人、漂流民らによって著された作品であり(xページ)、アジアがアジアを視る(I)、アジアから視る(II)、アジアを欧米から視る(III)の3つの枠組みに分類されている(ixページ)。時期的には東西交渉がさかんになる西暦5世紀から19世紀末まで、とくに日本語訳のある作品や和漢書、少なくとも英訳本が入手可能である作品を中心に選定されている(viページ)。

83冊の名著の目次は国立国会図書館のウェブサイトから確認することができる。一例として、この83冊のうち、東南アジア史でおなじみの名著や東南アジア史に関係する名著を、その解題の執筆者とともに挙げれば、下記の通りである。

I アジアがアジアを視る

    • 法顕『法顕伝』(鈴木隆泰)
    • 義浄『南海寄帰内法伝』(鈴木隆泰)
    • 周達観『真臘風土記』(高木尚子)
    • イブン・バットゥ―タ『大旅行記』(清水学)
    • 馬歓『瀛涯勝覧』(君野隆久)
    • 張燮『東西洋航』(岡本さえ)
    • 張廷玉他『明史』外国伝(岡本さえ)
    • アブドゥッラー『アブドゥッラー物語』(加納啓良)

II アジアから視る

    • 西川如見『華夷通商考』(西原大輔)
    • 新井白石『西洋紀聞』(小宮彰)
    • 魏源『海国図志』(佐藤慎一)

III アジアを欧米から視る

    • リンスホーテン『東方案内記』(松井竜五)
    • ラッフルズ『ジャワ誌』(加納啓良)
    • ウォーレス『マレー諸島』(加納啓良)

◎名著そのものの解題+手に取りやすい翻訳本等のガイドブック

3~4ページとそれぞれコンパクトにまとめられた解題の本文の中では、書名、著者略歴、本の成立時期、内容紹介、比較文化的視点と意義、同時代および今日における評価、書誌情報を盛り込むことが目指されている(292ページ)。この「書誌情報」の部分、すなわちそれぞれの解題の本文の末尾には、原書名のほか、手ごろに入手可能な版本の情報、平明な日本語で記された日本語訳本や英語訳本等の情報、著者に関する研究書の情報等がまとめられている。

総合図書館本館4階、アジア研究図書館の開架閲覧室を訪れたことのある方は、その一角にシリーズものの出版物、平凡社の東洋文庫が数百冊配架されていることにお気づきだろうか。アジア諸地域(アジア全域)の代表的な古典、名作、日記・紀行文が取り上げられており、かつ、原典を註釈や解説付き現代日本語訳で読むことができるものが多いことから、アジアに関する授業の中でこのシリーズのうちの一冊が紹介される機会も多いと思われる。またこのシリーズを手に取ったことを契機に、アジア諸地域の名著に魅了され、現代日本語訳ではなく原文で読めるようになろうと決意した方もいるかもしれない。

『アジアの比較文化 : 名著解題』の紹介に話を戻すと、本書の「書誌情報」の部分では、平凡社の東洋文庫シリーズとして刊行された本が多く取り上げられている(もちろん、岩波書店の岩波文庫シリーズをはじめ、他の出版社から刊行された出版物も沢山ある)。要するに、この『アジアの比較文化 : 名著解題』は、名著そのものの解題であると同時に、名著そのものを原文で読むことは難しい高校生・学部学生・大学院学生、専門外の研究者に対して、より手に取りやすい翻訳版等を紹介するガイドブックでもあるのだ。

なお、『アジアの比較文化 : 名著解題』の全体の巻末には書名索引・人名索引と英文要旨が付されている。また、フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)が刊行していたRevue bibliographique de sinologie誌(ISSN:0080-2484)Nouvelle sérieの21号(2003-2005年)p.10にはMichel Cartier氏による新刊紹介 “Ajia no hikaku bunka: meicho kaidai アジアの比較分化: 名著解題”が掲載されている(電子版への学内アクセスはこちら)。

【書誌情報】

『アジアの比較文化 : 名著解題』

岡本さえ編著

出版地・出版社:東京・科学書院

出版年:2003年

ISBN:4760302972

 

 May 17, 2022