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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【世界の図書館から】タイ国立図書館National Library of Thailand(タイ・バンコク)

 

タイ国立図書館

タイ国立図書館National Library of Thailand(タイ・バンコク)

宇戸優美子

日本学術振興会特別研究員DC

 

タイの首都バンコクのチャオプラヤー川東岸沿い、ドゥシット地区にある国立図書館の蔵書と利用方法について紹介したい。タイ国立図書館(ホーサムット・ヘン・チャート)は1905年にラーマ五世(チュラーロンコーン王, 在位1868-1910)が先王ラーマ四世(モンクット王, 在位1851−68)の生誕100年を記念して、王宮の中にタイ国最初の公開国立図書館を開設したことに始まる。この図書館は既存の3つの王立文庫、すなわち「ワチラヤーン御文庫」、「仏教文庫」、「王室経蔵」を統合し、国立ワチラヤーン図書館として創設された。1932年の立憲革命により人民党政府が成立すると、翌年に新設された芸術局の下で国立図書館と改称され、今日に至っている。1947年には、ダムロンラーチャヌパープ親王(1862-1943)の蔵書の譲渡を受けて「ダムロン文庫」が附設された。1966年には現在のサムセーン通りの新館に移転した。上部にタイの寺院風、下部に西洋風の建築様式を採り入れた美しい外観を有するが、中に足を踏み入れると内部は近代的かつ機能的な作りとなっている。なお同じ敷地内に、タイ国立文書館(National Archives)が併設されている。

タイ国立図書館は、入り口のある本館と、渡り廊下でつながる新館の2つの建物があり、それぞれ4階建てとなっている。入館する際には特に手続きは必要ない。本館1階にはインフォメーション、新聞・雑誌閲覧室、インターネットコーナー、視聴覚資料室がある。入り口右手の新聞・雑誌閲覧室には、タイ国内で発行される定期刊行物がよく揃っており、バックナンバーの装丁も行き届いている。そのほか外国語の新聞雑誌も置かれている。インターネットは、学習・研究目的のみ、1日1回1時間の利用が可能である(無料)。係員に声をかけ、利用申込書を書いたうえで身分証明書を預け、利用する。視聴覚資料室には写真、映像資料、音声資料、地図資料のほか、新聞・雑誌や貴重書のマイクロフィルム、マイクロフィッシュが置かれている。カタログを見て、閲覧申請をすると職員が出してくれる。なおマイクロフィルムは複写依頼をすることもでき、タイ国内の場合は1枚10バーツ、国外からの依頼の場合は1枚20バーツとなっている(送料込み)。

新聞雑誌閲覧室 新聞雑誌閲覧室

 

本館2階には一般図書(目録、社会、言語、科学、外国語図書)と、韓国朝鮮資料コーナーがある。3階は一般図書(芸術、文学、地理)のほか中国資料コーナー、そしてタイ関連資料コーナーからなっている。ここには近代タイの代表的知識人であるルアン・ウィチットワータカーン(1898-1962)、そして人文学者・著述家として知られるプラヤー・アヌマーンラーチャトン(1888-1969)の蔵書コレクションが含まれており、貴重な直筆本や私物なども展示されている。この2人はともにタイ国芸術局局長をつとめていた。なお本館の4階には製本された新聞・雑誌が置かれている。一般図書は開架式で、身分証明書を預けることで一時貸出することができ、館内で複写できる。閲覧室には学生や研究者などの姿が多く見られる。

2階一般図書

一般図書

 

新館の2階には、論文・研究書コレクションと、アジアに関する資料コーナーが設置されている。3階は貴重書、4階には写本・碑文・貝葉書が展示されている。2階の論文・研究書コレクションと3階の貴重書は閉架式になっているため、検索用パソコンで調べた請求番号を持って、カウンターで閲覧申請書に記入する必要がある。これらも一般図書と同様、館内で複写をすることができる。タイ語と英語で書かれたタイ国内の学位論文は2004年から現在までのものが収められている。貴重書は50〜150年前の図書や資料が5万冊以上保管されている。ここには王朝年代記やラーマ五世、ラーマ六世(ワチラーウット王, 在位1910-25)の著作や蔵書などが含まれる。本館には複写サービスコーナーがある。複写したいページにしおりをはさんで渡し、番号が書かれた控えをもらって、完了予定時間に受取りに行けば良い。料金は後払いだが、混み合っていると数時間後になることもある。午後から行くと、複写が終わるのを待っているうちにあっという間に閉館ということもあるため、どうしても当日中に入手する必要がある場合は朝一番に行くことをお勧めする。スタッフの手さばきは華麗で速いのだが、いかんせん複写待ちの資料の数が多すぎる。

 貴重書閲覧室

貴重書閲覧室

 

以上で紹介したように、タイ国立図書館では一般図書のほか、タイ国内で刊行された学術論文や貴重な歴史的資料、古い新聞・雑誌のマイクロフィルムなど、多くの有益な資料に出会うことができる。なお図書館の入り口を出てすぐのところにカフェがあり、複写を待っている間に一息つくことができる。図書館周辺には多くの屋台や食堂などがある。最後にタイ国立図書館へのアクセスであるが、もっとも手軽なのは高架鉄道(BTS)のラーチャテーウィー駅で降り、駅前のバス停で23番か99番のバスに乗り換えることである。別の方法としては、地下鉄(MRT)のバーンスー駅で降りて65番バスに乗るか、同じ地下鉄のフアラムポーン駅で降りて49番バスに乗る手もある。どのバスに乗っても図書館の最寄りのバス停「テーウェート」(Thewet)で下車すると、タイ国立図書館までは徒歩1〜2分である。不慣れで、かつ時間を節約したい場合は市内からメータータクシーを使うのが良いだろう。なお、現在タイ国立図書館のウェブサイトにはデジタル・ライブラリーがあり、デジタル化された古いタイ字新聞や写本、貴重書、ダムロン親王のコレクションなどを検索することができる。


所在地:Samsen Rd, Bangkok 10300 Thailand  電話:662-628-5192

基礎情報

図書館ウェブサイト http://www.nlt.go.th/
入館・閲覧に必要なもの 入館は自由だが、閲覧・複写のための貸出の際にパスポートのコピー(場合によっては原本)が必要。
開館日時 月〜金9:00-18:30 土・日9:00-17:00(新聞、雑誌、一般図書、学術論文、インターネット利用)

貴重書、貝葉書、製本雑誌、視聴覚資料室の利用は、月〜金9:00-16:30