川内佑毅
大東文化大学大学院文学研究科書道学専攻博士課程後期課程、同大学人文科学研究所兼任研究員
蘇州図書館は、中華人民共和国江蘇省蘇州市を代表する公立図書館である。清末の正誼書院学古堂を前身とし、1914年(民国3年)に設立された。本館は市中心の人民路858号に所在し、その他市内に10箇所以上の分館が点在する。現在の本館は2001年に建てられた近代的な建物である。蔵書は約320万冊で、そのうち古籍は約30万冊、うち約2万冊が善本古籍である。これら蔵書については、蘇州図書館ホームページ上の図書検索(http://reader.szlib.com/opac/index/advance)より検索することができる。データベースは、図書・期刊・非書資料・古籍・電子書籍・音像資料に分かれており、個別に選択してキーワードを交えて検索することができるので(いずれも簡体字表記)、訪問する前に検索して目当ての資料をリストアップすることをお勧めする。
筆者は、博士研究の一環として、明清代の古籍史料を求めて2015年3月に同図書館本館及び古籍閲覧室を訪れた。古籍閲覧室は、本館の敷地内の別の建物に所在し、奇石の乱立する庭園「天香小築」のそばに位置している。ここでは紹介状など必要なく古籍を閲覧することができる。本館にて荷物を預けたのち古籍閲覧室へ向かい、パスポートを提示して番号札を受け取った。室内には木製の机と椅子が並んでおり20ほどの座席があり、利用者は疎らでひっそりとした雰囲気であった。写真左手奥の開架の書棚には工具書や地方志叢刊などが安置されており、自由に閲覧することができた。蘇州図書館では、書誌情報の電子化が進んでおり、据置の検索用端末を用いて書籍を検索し、その情報を出庫申請書に明記して館員に提出し、閲覧するという手順であった。一日の閲覧冊数の制限などはなく、出庫の待ち時間もさほど長くなかった(大体5〜10分)。カード目録はすでに他所へ移されたのか、閲覧室内には見当たらなかった。ここで、自身の専門である印章・篆刻に関する古籍を丸一日掛けて検索・閲覧した。
蘇州は、明代末期には絹を筆頭とする交易の中心地として、かつ経済・金融の中心地として栄華を極めた地である。その経済的繁栄を背景に、沈周や祝允明、陳淳、唐寅、文徴明らの文人が現れ、書画や扇面の応酬や家刻法帖の刊行が流行するなど芸術活動が盛んに行われ、印譜や刻印に関する論著の刊行も少なくなかった。蘇州図書館には、明清代を通して刊行された地元ならではの手稿本や稀覯本などが若干数ではあるが収蔵されていた。例えば、何爾塾著「書原」、「篆刻法要」などを録した『篆刻草』(乾隆五十六年刊、一帙二冊)や、汪克壎による手稿本『篆刻随録』(一冊)、呉大澂の蔵印の印譜『雙罌軒漢印譜』(一冊、原鈐本)などは他ではあまり見ることのない稀有な資料であった。また、日本の濱村裕(五世濱村蔵六、1866−1909)が渡清し当地で編した印譜『結金石緣印譜』(二冊、光緒二十八年刊)は、日本では見ることのできない印影も数多く納める貴重な資料であった。このほか約15種ほどの古籍を閲覧し、一日の調査を終えた。
資料の複写であるが、コピー不可でありスキャンなどのサービスもなく、複写できる状態でない点は惜しかった。文章などを控える場合は手稿による写しか、パソコンに打ち込んで持ち帰るほかに方法がない。これは、遠路はるばる訪れるにしては聊か条件が悪いと言わざるを得ないであろう。このような事情はホームページなどに殆ど明記されておらず、当地に行くまで分からないことである。中国の図書館の古籍閲覧室では、日夜パソコンに向かってひたすら文字を打ち続けている人を散見する。皆、書籍の全文を控えるために膨大な時間を掛け作業しているのである。撮影やスキャンが可能な館であったとしても、複写は法律上全体の三分の一までと決まっており、全てを複写することは不可能である。手稿本や稀覯本の情報を収集するには、事前にどのような複写サービスがあるか図書館に直接問い合わせることをお勧めする。
周辺の食事事情だが、館内に食堂はなく、近くの人民路と十梓路の交差点付近に庶民向けの食堂などが並んでいる。11時から13時までの2時間は昼休みにつき閲覧ができないので、色々と周辺を散策してみるのもよいであろう。
図書館ウェブサイト | |
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入館・閲覧に必要なもの |
パスポート(古籍閲覧時) |
開館日時 |
月〜日9:00〜21:00 |
その他 |
古籍閲覧室の閲覧時間は、月〜金9:00〜11:00、13:00〜17:00(11:00〜13:00は昼休み)。 |