2F館内和洋図書エリアから館内を見渡す
U-PARL特任研究員
澁谷 由紀
◎来歴
アジア経済研究所図書館(通称アジ研図書館)は、開発途上国に関する社会科学系の研究機関である独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の附属図書館であり、開発途上国関連資料に関する世界屈指の専門図書館である。いうまでもないことだが、アジ研図書館はU-PARLが構築支援を行い、2020年の開館を予定している「東京大学アジア研究図書館」とは別の図書館である。
アジ研図書館の前身は1959年に設置された同研究所の図書資料部である。図書館は1963年に東京の大手町から市谷本村町に移転し、1999年に現在の場所である千葉県千葉市の幕張新都心に移転した。2019年4月より、アジ研図書館の運営はアジア経済研究所の学術情報センター図書館情報課によってなされることになった。組織改組の目的は、運営面で同研究所の出版編集部門と統合し、電子媒体での研究成果の発信・出版を推進することだという。
アジア経済研究所正面玄関
◎所蔵資料
アジ研図書館の主な所蔵資料は、「開発途上国」に関する学術図書と、「開発途上国」各国の統計資料等政府刊行物、新聞・雑誌、地図であり、国際機関の報告書等も豊富である。ここでいう「開発途上国」とは、アジ研の創立以来研究対象とされてきた地域で、現在においては「開発途上国」とはいえなくなってしまったような国も含まれている。したがって東南アジアを例にとれば、一人当たりGDPで日本を上回っているシンガポールについての資料も収集対象に含まれる。アジ研図書館の主な利用者としては、産官学の3分野が想定されており、「学」(研究者)のみが利用者として想定されているわけではない。
アジ研図書館のOPAC(オンライン蔵書検索システム)上の書誌には、統計資料を除く一般図書と雑誌論文・記事索引には、地域別検索を容易にするための「アジ研地域コード」と主題別検索を容易にするための「アジ研件名」が登録されている。「アジ研地域コード」の例として東南アジアを挙げれば、「AH*」(東南アジア)、「AHBN」(ボルネオ島)、「AHBR」(ミャンマー)、「AHBX」(ブルネイ)「AHCB」(カンボジア)、「AHIC」(インドシナ)、「AHIO」(インドネシア)、「AHLS」(ラオス)、「AHMP」(マレー半島)、「AHMY」(マレーシア)、「AHPH」(フィリピン)、「AHPT」(東ティモール)、「AHSI」(シンガポール)、「AHTH」(タイ)、「AHVM」(ベトナム)、「AHVN」(北ベトナム)、「AHVS」(南ベトナム)、「AHXA」(クリスマス島)、「AHXB」(ココス諸島)のいずれかが振られている。「AHMP」(マレー半島)、「AHVN」(北ベトナム)等は歴史的地域区分である。請求記号の1段目は地域コードで配架されているので、調べたい地域が決まっているならば、地域コードを頼りに直接書架に行ってしまうのも早い。
館内OPACには「アジア経済研究所図書館 分類・件名表」(2001.3)が備え付けられている。日本語の件名については国立国会図書館件名標目表NDLSH、英語の件名についてはLibrary of Congress Subject Headingsをベースにしながら独自に作成し、現在まで維持更新が続けられている。
ベトナムの統計資料コーナー
原則、全館開架方式。思わぬ資料との出会いから新しい発想が生まれる。
写真はインドネシアの州別人口統計。
次世代に残してほしい途上国の新聞。閲覧室(左)と新聞庫に保存されているウガンダの新聞原紙(右)。
◎利用方法
アジ研図書館はだれでも利用できる。閲覧は無料である。入館に際しては身分証明書や紹介状の提示は不要であるが、入館証に名前や所属を記入する必要がある。未成年者も入館可能だが、小学生以下は保護者の同伴が条件である(とはいえ日本語で書かれたもっとも柔らかい読み物でも開発途上国各国に関する日本の経済団体の定期刊行物であり、国際子ども図書館のように開発途上国各国で出版された児童書は収蔵されていないため、親の資料調査に小学生以下のこどもを帯同することは現実的でない)。
後述のようにレファレンスサービスがあり、国立国会図書館のように満18歳以下でも事前申請は不要であるから、スーパーグローバルハイスクール(SGH)指定校の生徒をはじめ、高校生が途上国に関する調べもの学習をする際には利便性が高い。閲覧室へのスキャナー、カメラの持ち込みは不可。パソコンは使用可能である。
アジ研図書館は基本的に開架方式で、特殊資料(マイクロフィルム、地図)など、一部の資料をのぞき、自由に閲覧ができる。そのため、利用前にOPACを検索して目的の資料をリストアップし準備万端で出かけるというよりも、とりあえず入館してしまい、目当ての書架の前に立ち、「ブラウジング」(書架を眺めながら興味をひかれた資料を手に取ってぱらぱらとめくること)し、いつも使用している所属先図書館では得られなかった発見やアイディアを得るというのがおすすめの利用法である。
アジ研図書館は公共図書館や大学図書館と異なり、貸出サービスを基礎的なサービスと位置付けていないから、貸出中で資料がないということはないように思われがちだ。しかし実際は所内研究者への貸出、図書館を通した貸出や、研究会外部委員、賛助会員、OB/OG、図書館共同利用制度などの様々な貸出制度があり、貸出サービスは例外的な位置づけではなくなっている。必ず閲覧したい資料がある場合、あらかじめOPACで検索し貸出状況を把握したうえで、閲覧予約をしてから訪問するのが望ましい。外部利用者に対する統計年鑑の貸出はされていない。マイクロフィルムを閲覧する場合は来館日の2日前までに手続きを行う。CD-ROMは予約すればあらかじめ動作確認をしてもらえる。
◎レファレンスサービスについて
アジ研図書館には「開発途上国に関する文献・情報・統計データ等について」のレファレンスサービス(資料に関する相談サービス)がある。
レファレンスサービスについては、1Fデスクの資料相談コーナーで利用者からの問い合わせに直接答えている他、メール(alislib@ide.go.jpまたはウェブサイト上のレファレンス申込フォーム)、電話(043-299-9716)でも随時レファレンスを受け付けている。
1Fデスクの資料相談コーナー
最も便利なのがウェブサイト上のレファレンス申込フォームである。申込フォームには、「照会事項(=調べたいこと)」のほかに、「所属」「部署・役職名」「業種」「名前」「電話番号」「E-mail」「会員区分」を明記する。「所属」と「部署・役職名」については、「個人」と記入してもさしつかえない。「業種」については、「貿易、流通、金融、通信」などのほかに、「研究機関」「教員」「大学院生」「大学生」「その他」という選択肢も設定されている。「会員区分」は「アジア経済研究所賛助会正会員」等かどうかという問いであり、いずれの会員でもない場合もさしつかえない。「照会事項」については、「できるだけ具体的に、1,000字以内で」書くことが求められる。
大学等研究機関の教職員にとって、調べものを誰かにしてもらうというのはどことなく「恥ずかしい」または「ずるい」気がしてしまうし、実名に加え、所属と役職名を記入しなくてはならないとなると二の足を踏んでしまう。しかしながら、アジア研究に関わる教員・研究者・大学院生にとって、アジア経済研究所のレファレンスサービスは大いに利用する価値があると思われる。以下にふたつ、おすすめの利用目的を記す。
第一に、統計情報の収集である。統計年鑑はタイトル変遷がしばしば行われ、また近年は、オープン・ガバメント政策の進展により、各国統計局ウェブサイトから直接統計データをダウンロード可能な場合も多い。また統計の中には、冊子体刊行が終了し電子版のみが存在しているものもある。情報は時々刻々と変化しているため、たとえ自分の専門とする国・地域についてであっても、自分で調べるより、統計資料の収集を主要な業務の一つとするアジ研図書館のライブラリアンに聞いてしまい、情報のありかを把握してから原資料にあたるのがてっとり早く確実である。
第二は学生自身による利用または教員による授業のための利用である。著者はある県立大学で「アジアの歴史と文化」という科目を非常勤講師として担当した際に、一人の学生から「卒業論文でシンガポールの教育について調べたいので資料を紹介してほしい」というリクエストを受けたことがある。その際には当該の学生に、論文、図書・雑誌や博士論文などの学術情報を検索できるデータベース・サービスCiNii(国立情報学研究所学術情報ナビゲータ、サイニィ)の県別・主題別検索結果やシンガポール統計局のウェブサイトのプリントアウトを渡したのだが、大教室の科目の担当で、しかも週1回だけ出講している非常勤講師としてできることは限られる。学生自身にレファレンスサービスの利用を積極的に勧めたい。また授業の内容や学生の関心と狭い意味での教員の専門は必ずしも一致しないが、そういった場合にもレファレンスサービスによる図書館のサポートは教員にとってありがたい。
司書資格取得に必須の図書館に関する科目のうちの一つである「情報サービス演習」を履修した者にはよく知られていることだが、国立国会図書館は「良書の推薦」「学習課題、卒業論文または懸賞問題に関する調査」「調査および研究の代行と認められる調査」といった事項についてのレファレンスには応じていない。アジ研図書館については、過去のレファレンス事例を見る限り、他館所蔵資料も含め、もう少し広く参考文献の紹介を行っているようである。具体的事例は「国別レファレンスQ&A」を参照してほしい。
ちなみにレファレンスサービスの回答者はアジア経済研究所の研究者ではなく、閲覧カウンタースタッフでもなく、学術情報センター所属のライブラリアンである。平均的なライブラリアン像は下記のとおりである。通常、大学院修士課程を修了した後入所し、「開発途上国一般」「中華圏」「朝鮮半島」「東南アジア」「南アジア」「中央アジア」「中東・北アフリカ」「アフリカ」「ラテンアメリカ」「オセアニア」のいずれかを担当する。レファレンスサービスに関係するライブラリアンは2018年4月現在10名である。
キャレルデスク
◎キャレルデスクと休憩処・食事処
幕張新都心という立地のため、館内は広く、キャレルデスク(個席)の数は十分であり、一日ゆっくり調べものや執筆が可能である。電源コンセントはキャレルデスクに備え付けられている。受付カウンターでWIFIの利用申請も可能である。返本台があり、書架に自分で戻さなくてよいのはうれしい。
くたびれたら1Fに下り、新着資料や雑誌を手に取って、ソファーでのんびりしてもよい。図書館を出て数分のところにカフェテリアがある。ランチタイムは平日11時30分から13時30分まで。ピーク時は研究所の研究者・職員で混雑する。ランチタイム以外もカフェテリア・売店として営業しているため(11:30-16:00)、甘いものが欲しくなったら休憩に立ち寄ることができる。
1F雑誌・新聞コーナー。「開発途上国」全地域に関する学術雑誌、各国・地域別のビジネス誌が集中しているため、「開発途上国」情勢、日本との関係、研究動向を地域横断的につかむことができる。
(2019年4月19日掲載 協力:日本貿易振興機構学術情報センター 村井友子氏)
<アジ研図書館に聞きました>
Q1. 大学生に対するレファレンスサービスと大学教員や研究者、企業所属者に対するレファレンスサービスには違いがあるのですか?高校生の調べもの学習には対応されていますか?
A1. 大学生の方に対するレファレンスサービスでは、入門書を中心に紹介し、参考質問を重ねて、求めている情報にたどり着くように手助けします。大学教員や研究者の方は、専門的な情報をピンポイントに探されている場合が多いので、統計資料等の一次資料を中心に学術書・専門書をご紹介しています。企業所属者の方は最新の情報をできるだけ早く求められている場合が多いので、ウェブを中心に速報性の高い情報をご提供しています。高校生の方からの質問はまれですが、見学などでご来館いただいています。
Q2. 平均回答時間はどのくらいですか?おすすめはメールですか?それとも直接来館?
A2. 30分から2時間と質問によって幅が広いです。これまでに前例がないようなレファレンス、専門的なレファレンスは時間もかかりますが、ライブラリアンとしてもとても勉強になり、やりがいがあります。このように内容によってはお待たせしてしまうこともありますので、事前にメールをいただき、必要に応じてご来館いただくのがベストです。
Q3. アジ研図書館所蔵の統計資料や図書資料、電子公開されている統計情報等によ る調査では回答不可能な質問がよせられた場合はどうするのですか?所内研究者にきくのですか?
A3. 最適な外部機関をご紹介するよう努めています。国内外には多くの研究機関・専門図書館があり、それらの知識を持っていることもアジ研図書館のライブラリアンの強みです。
ありがとうございました!
基礎情報
図書館ウェブサイト
https://www.ide.go.jp/Japanese/Library.html(日本語)
https://www.ide.go.jp/English/Library.html (英語)
住所
〒261-8545 千葉県千葉市美浜区若葉3-2-2
電話
+81-43-299-9716
開館日時
月曜~金曜、第1・3土曜10:00~18:00
第2・4・5土曜、日曜祝日、月末、年末年始休
アクセス
京葉線JR海浜幕張駅 徒歩10分