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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

EVENT

【終了しました】第1回U-PARLシンポジウム「むすび、ひらくアジア:アジア研究図書館の構築に向けて」開催のお知らせ

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むすび、ひらくアジア:アジア研究図書館の構築に向けて

【このイベントは終了しました】

U-PARLは第1回目となるシンポジウムを、2015年1月31日(土)、福武ラーニングシアターにて、下記の要領で開催します。皆様のお越しを心よりお待ちしております。なお、ご参加いただける場合は、下記のボタンより事前申込フォームに登録していただきますと、当日の受付がスムーズです。

*事前申し込みの受付は終了しました。事前申し込みがお済みでない方は、ご来場の際、ロビーにて受付いたします。

シンポジウム事前申込フォーム

 

東京大学は今「アジア研究図書館」をつくろうとしています。その実現のために設立された研究部門がU-PARLです。

地理的・歴史的・文化的区分、記録と発信のメディア、学問分野など、様々な条件や枠組みが揺れ動く中、

アジアをめぐる新しい研究図書館をどのように構想していくのか。

そもそも<アジア>とは何なのか—。

このシンポジウムでは、アジア研究図書館の実現に向けて、アジアとアジアをめぐる知のあり方を考えます。

 

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なお、当日、会場では、本年度にU-PARLが収集し、現在整理中のコレクション展示も行います。是非ご覧ください。

*展示の就床時間は17時となります。

 

 

プログラム

ポスターもご覧ください。

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講演要旨


<アジア>を考える――インドの事例に見るその意味と困難

冨澤かな

(東京大学附属図書館U-PARL副部門長)

 

「アジア研究」という表現がいつどのように定型化したのか、私はたどれていないが、18世紀末にカルカッタに設立された学会、アジア協会(Asiatick Society)の会誌のタイトル、 Asiatick Researchesは、おそらくその初期の重要な用例であろうと思う。近代インド学の祖と言われるサー・ウィリアム・ジョーンズは、協会設立にあたりこう語った。「……私の考えでは、みなさんは、唯一アジアの地理の範囲にしか限定されない豊かな空間を、学的探求の対象とすることとなります。……この地理的限定の中で何が……研究対象になるのかと問うならば、答えはこうです。人間と自然です。前者によって営まれ、後者によって生み出されるすべてです」。その構想は、今東京大学がつくろうとしているアジア研究図書館に驚くほど通じている。それはつまり、その問題も我々は引き継いでいるということである。

ジョーンズら「オリエンタリスト」のインド研究に対しては、ネルーが「インドはその過去の文學の再發見に對して、ジョーンズはじめ他の多くのヨーロッパ人學者に深甚なる謝意を表すべき義務を負うている」と語るなど、高い評価がある一方で、サイード以降のオリエンタリズム批判においては、文字通り「オリエンタリズム」の担い手として強い批判も向けられてきた。様々な意見があるが、「アジアを語る」という営みが西洋の支配の枠組みの中で始まったことは事実である。そしてその一方で、その「アジア」において、岡倉天心のように「アジアは一つ」といった観念が語られるようになると、それはアジアの力ともなり、また困難ともなった。そういった「アジアを語る」過去の上に、今我々は立っている。その過去の「オリエンタリズム」や「帝国主義」を批判し反省することが必要であるが、同時に過去から学びうることもまた多いであろう。アジア研究図書館の構築にあたり我々は、アジアという地域と観念が意味するものは何か、アジアを語り考えるとはどういうことか、そして、今求められるアジア研究とはどのようなものなのかを、あらためて考える必要に迫られている。本日のシンポジウムはそのための貴重な一歩となるものと考えている。


冨澤かな(東京大学附属図書館U-PARL副部門長)

東京大学人文社会系研究科博士課程修了、博士(文学)。専門は宗教学。インドを中心とするオリエンタリズム問題、特に18世紀末のイギリス人のインド理解と宗教概念の展開、インドの英人墓地の社会文化的意義などを研究。論文に「18世紀インドにおけるイギリス人の死の記憶」池澤優、アンヌ・ブッシイ編『非業の死の記憶』(秋山書店、2010年)、「「インドのスピリチュアリティ」とオリエンタリズム」『現代インド研究』第3号(2013)など。


仏教学知識基盤から照らす

デジタル・ヒューマニティーズの現在と図書館の未来

下田正弘

(東京大学大学院人文社会系研究科)

 

これまで長きにわたって、大学、図書館、博物館等において個別のジャンルごとに静態的に所蔵されていた知識資源は、20世紀半ばより爆発的に進化した情報技術の力に乗って流動化し、デジタルという一地平に開き出された。過去から継承される厖大な知識資源を整理、保存する役割を担ってきた図書館には、いま、この新地平の中心に位置し、知識を既存の枠組みから解放して再発信する、あらたなミッションが期待されている。

この状況下にあって「アジア研究図書館」という専門図書館が果たすべき使命は、知の流動化と普遍化とに対応するなかに専門化を実現するという、一見したところ逆説的なものとならざるをえない。だが、じつはこの逆説にこそ、他の公共図書館にはない、大学図書館に固有の意義と可能性とがある。アジア研究図書館がこの可能性を十全に発揮しうるためには、世界の諸大学、図書館、博物館において、専門知を分野横断的に提供する仕組みがどのように構築され、そこにいかなる問題と可能性とが胚胎されているかを的確に分析する必要がある。

欧米において、前史もふくめ半世紀の歴史を有するデジタル・ヒューマニティーズ(人文情報学)は、この課題に正面から取り組み、新時代に向けての図書館の変革を理論と実践の両面から先導しつつある。非西洋世界にはほとんど知られていない、この新たな学問領域に、日本から発信される数少ない学術プロジェクト「国際連携による仏教学術知識基盤の構築」は、デジタル次元で展開する人文学の諸課題を集約的に反映する、汎アジア的知識基盤再編の代表的事例として、アジア研究図書館の今後の進路に示唆を与えるものとなるだろう。


下田正弘(東京大学大学院人文社会系研究科)

東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。専門はインド哲学仏教学および人文情報学(デジタル・ヒューマニティーズ)。研究の関心は、古代インド仏教の聖典形成史、仏教思想史。著作に『涅槃経の研究――大乗経典の研究方法試論』(春秋社)、『新アジア仏教史』(全15巻、佼成出版社)、『シリーズ大乗仏教』(全10巻、春秋社)、大規模データベースに〈大正新修大蔵経テキストデータベース〉http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/


  漢籍の境界

齋藤希史

(東京大学大学院総合文化研究科)

 

中国の古典籍、すなわち漢籍は、経・史・子・集の四部を基準に排列するのが伝統的である。分類の詳細は所蔵機関によってまちまちだが、標目としての四部は動かない。この分類は、あらゆる書物の汎用的な分類を企図する十進分類法などとは異なって、漢籍以外の書籍に適用するのは難しい。簡単に言えば、そんなことは考えていない。漢籍が少ない図書館では、汎用的な分類にしたがって排架されていたりもするが、それなりの所蔵を有するところでは、漢籍は漢籍で一つの書庫をもち、独自の分類をもち、つまり一つの宇宙を作っている。

だが、漢籍の世界はそれほど堅固に閉じたコスモスなのだろうか。たとえば「準漢籍」という分類がある。「漢籍に基づくあるいは漢籍に関わる邦人による注解や編著・論説など」(『東京大学総合図書館準漢籍目録』)、つまり中国で著述編纂された漢籍を日本で抜粋再編したり、新たに注釈を加えたりなどした書物を指す。繙けば、漢字だけではなく訓点や仮名で書かれた注記が目に入る。漢籍を「前近代の中国人が古典文(漢文)で書いたもの」と定義する立場からすれば、これは〝純粋な〟漢籍ではない。漢籍という宇宙の外側、もしくはせいぜい〝へり〟に位置するものとしてとらえられる。しかし別の見方をすれば、これほど興味深い書物はない。

漢籍の価値は、少なくともそのうちの一つは、むしろ言語や地域、そして時代の枠を超えるところにある。異なるものと交じり合うところにこそ、漢籍の特性、もしくは漢字によって記された文章の特性、そして可能性は浮かび上がる。古くは仏典を経由したサンスクリット語、元代にはモンゴル語など、中国大陸にはさまざまなことばが大量に訪れ、また、朝鮮半島や日本列島、インドシナ半島へと漢籍は渡った。そうした局面で観察されるさまざまな事象は、整然とした秩序を構成するかに見える漢籍の宇宙に、隠されたダイナミズムがあることを示してくれる。

アジアとは何か。漢籍という視点から、とりわけその境界におけるダイナミズムという視点から、考えてみたい。


齋藤希史(東京大学大学院総合文化研究科)

京都大学大学院文学研究科博士課程(中国語学中国文学)中退、京都大学人文科学研究所助手、奈良女子大学文学部助教授、国文学研究資料館文献資料部助教授を経て現職。専門は中国古典文学・近代東アジアの言語と文学。最近の研究関心は、漢字世界における”読み書きする主体”の形成。著書に『漢詩の扉』(角川選書、2013)、『漢字世界の地平 私たちにとって文字とは何か』(新潮選書、2014)、『漢文脈と近代日本』(角川ソフィア文庫、2015)など。


 アジア研究図書館の意味と使い方

羽田正

(東京大学副学長、東洋文化研究所)

 

新しくできるアジア研究図書館が、学生・研究者の自由な発想に基づくアジア研究を強力に支援する存在となることを期待し、二つの問題提起を行いたい。

アジア研究図書館は、アジアについて研究するための図書館であるはずだ。当然、「アジア」についてどのような角度からでも研究できるように、多様な資料が備わっていなければならない。では、「アジア」とは何だろうか?様々な「アジア」があってよいが、注意すべきことは、地理的空間としてのアジアと課題としてのアジアを区別することである。課題としてのアジアは地理的空間としてのアジアと一致する場合もあるが、それを超えてさらに拡がってもゆく。グローバル化の進む現代において、空間としてアジアを他の地域と区分するのではなく、課題としてのアジアが他の地域とどのように関連し、接続するのかを考えたい。そのためには、どんな資料をどのように揃え、整理すればよいのだろうか。

日本における従来の学問分類では、「アジア研究」に日本研究は含まれない。西洋近代起源の人文学・社会科学は、「自」と「他」を区別して理解することを特徴とし、日本人研究者の多くは、「他」としてのアジアを研究してきた。この伝統を受け継ぐなら、この図書館には「日本」に関連する資料は収蔵しなくても構わないということになる。しかし、今日、この図書館を利用するのは、日本人研究者だけではない。外国人研究者の多くは、東京大学にResearch Library for Asian Studiesが整備されたと聞くと、そこには日本に関しても充実した資料があると予想するだろう。この人たちの期待にどう応えればよいのだろう。これは、従来の日本語による人文学・社会科学知の限界を超えるための実験である。アジア研究と日本研究、さらには多種多様な地域研究の成果をどのようにつなぎ整理すればよいのだろう。


羽田正(東京大学副学長、東洋文化研究所)

パリ第3大学Ph.D取得。専門は歴史学。最近の研究関心は、新しい世界史の理解の仕方と描き方。著書に、『新しい世界史へ』(岩波書店、2011年)、『東インド会社とアジアの海』(講談社、2007年)、『イスラーム世界の創造』(東京大学出版会、2005年)など。


 東京大学図書館の未来とアジア研究図書館―東南アジア研究者の視点から

古田元夫

(東京大学附属図書館長、大学院総合文化研究科)

 

私は、ベトナム研究者だが、この自分の専門領域に関しては、東京大学の図書館の世話にはあまりならなかった。私がベトナム研究をはじめた1970年代には、東京大学に限らず、ベトナム語書籍の本格的なコレクションは、日本中のどの図書館にも存在せず、ベトナム語資料を使ったベトナム現代研究は、まずベトナムへ行って書籍・資料を購入するということから、始めなければならなかった。ただ、当時は、ベトナム語書籍は安価で、例えばベトナムの国立の研究機関である史学院の紀要『歴史研究』の200冊あまりのバックナンバーのセットが、公定の為替レートで日本円に換算しても2万円あまりで買えたりした。また、ベトナムでの出版点数も限定されており、ある分野の基本的な書籍を網羅的に買いそろえることが、若手研究者でも不可能ではなかった。だが、今では全く状況は変化しており、ベトナムで出版される本も高価で点数も増え、また、電子化されている情報も急増しており、個人や規模の小さな研究室で、一定分野の書籍・資料を網羅的に収集することはほぼ不可能になっている。

今回、東京大学が、アジア研究図書館を総合図書館内に置くことを計画した背景には、こうしたアジア研究をめぐる大きな状況の変化がある。

東京大学の総合図書館は、性格があいまいな図書館で、多くの貴重書や研究図書をもつ一方で、個々の部局図書館がその部局が担うディシプリンに関する研究図書館であるという前提のもとに、どちらかといえば学習用図書館的な側面を強化することで発展してきた。この学習用図書館としての機能は今後も重要だが、アジア研究図書館は、総合図書館が研究図書館としての機能も併せ持つ図書館としての性格を明確にする意味をもっている。こうした総合図書館の未来にとってアジア研究図書館がもつ意味を考えてみたい。


古田元夫(東京大学附属図書館長、大学院総合文化研究科)

東京大学大学院社会学研究科国際関係論専門課程中退、学術博士(東京大学)

ベトナム地域研究、ドイモイ下でのベトナムの社会変化、『ドイモイの誕生―べトナムにおける改革路線の形成過程』青木書店、2009年、『21世紀歴史学の創造第5巻人々の社会主義』有志舎. 2013年(南塚信吾・加納格・奥村哲と共著)。


 

主催:東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)

共催:東京大学附属図書館新図書館計画推進室