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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【世界の図書館から】カンボジア公文書館(カンボジア)

カンボジア図書館

カンボジア公文書館(カンボジア)

新谷春乃

東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程

カンボジアは1975年から1979年のポル・ポト時代(民主カンプチア時代)に図書館、公文書館が本来の用途とは異なって武器庫や家畜小屋として使用されたことや、その後の混乱の時期に多くの公文書が散逸したと言われている。限りある公文書資料を管理し、研究者らへ広く公開している機関が、今回紹介するカンボジア公文書館(バンナーサラターン・チアット)である。

カンボジア公文書館は、カンボジア王国の王都プノンペンの北部に位置しており、近隣には国立図書館(バンナーライ・チアット)、情報省、ラッフルズホテル、ワット・プノムがある。もともとはフランスがカンボジアを保護国化した1863年に設立された。ポル・ポト時代を経て、1980年に再開された。1990年代にはオーストラリアやスイスの支援で一般利用に向けた整備が進められた。

フランス植民地時代の建造物が現在でも利用されており、クラシカルな雰囲気が漂う。入り口から入ってすぐの場所に閲覧スペースがあり、各国の研究者と机を並べて、資料を見ることできる。

 

1.利用方法

利用方法はいたって簡単である。公文書館へ行き、入り口に荷物置き場があるため、そこに鞄等を置く。カンボジアの他の図書館では荷物を管理する担当者がいるが、公文書館にはいないため、貴重品の管理は厳重にしたい。その場で利用登録(氏名、所属、調査目的等を明記)し、利用料(1か月15米ドル)を支払うだけで誰でも利用ができる。閲覧スペースに設置されているパソコン又は冊子から閲覧したい資料のボックス番号と資料名を探し、それを記した用紙を館員の方に渡すと、資料を持ってきてくれる。それらの資料の中で、印刷を要する場合は、原則公文書館内のコピー部門へ届出し、混雑具合に応じて1日~3日位でコピーを受け取ることができる。代金は後払いである。お釣りがない場合が多いため、小額リエル札(カンボジアの紙幣)を多数用意しておいた方がよい。製本が脆くなっている資料のコピーについては、館員の方と要相談である。また、公文書館の館員はフランス語や英語に堪能であるため、クメール語話者でなくても容易に利用できる。

また館内で持ち込んだパソコンを利用することはできる。場所は限定されるが、電源をつなげることもできる。ただ、館内に空調は全くなく、扇風機と外から入ってくるそよ風のみであるため、パソコンも人間も暑い思いをするだろう。飲み物は、閲覧室で飲むことはできず、入り口近くの荷物置き場で飲む。

開館時間は、朝8時~10時半、14時~16時半である。閉館時間は割と厳格で、閉館時間間近に閲覧を希望しても断られることが多い。また、人員に限りがあることから、混雑具合によってはなかなか資料の閲覧ができないこともある。余裕を持って訪問してほしい。

 

2.コレクション

公文書館で扱う資料は植民地時代から現代にかけてのコレクションが中心で、以下の構成から成っている。

①カンボジア理事長官文書

②新聞(フランス植民地時代~現代)

③カンボジアの出版物

フランス植民地時代以降に発行された出版物が保管されている。各省庁で発行されたものから、民間出版社で印刷されたものまで幅広く取り扱っている。理事長官文書同様に分野ごとに分類されており、調査テーマに合わせて資料を探すことができる。

④Charles Meyerの写真コレクション

フランス植民地時代が始まる19世紀半ばから、シハヌークによる統治全盛期である1960年代にかけて、カンボジアや諸外国で撮影された写真のコレクションである。地域、建築、芸術、儀式、王族、海外行幸、モニュメント、寺院などを分野別に閲覧することが可能である。写真コレクションはインターネット上でも見ることができる。

⑤公文書

公文書とざっくり分類されているが、その構成は、Bulletin Administratif du Cambodge(1902~1945年)、Bulletin Administratif Français du Cambodge(1946~1952年)、Bulletin Officiel de l’Indochina、Journal Officiel du Cambodge、Journal Officiel du Indochine、Reach Kech(クメール語で「官報」の意、1911年~、随時更新)である。

 

他にも、ポル・ポト時代関連資料や、ノロドム・シハヌーク元国王が寄贈した映画フィルムのコレクションも揃えている。ただし本格的にこれらの資料を見たい場合、ポル・ポト時代に関しては、カンボジア文書センター(Documentation Center for Cambodia、http://www.dccam.org/)、映像フィルムに関しては、ボパナ映像センター(Bophana Audiovisual Resource Center、http://bophana.org/)へ訪問する方が良かろう。

近年、公文書館の敷地内に新しく書庫が作られ、コレクションの拡充が進んでいるようだ。これらのコレクションは、日本に居ながらもオンライン・カタログから探すことができる。日本である程度目星を付け、ボックス番号とタイトルを控えておくと、現地ですぐに資料へアクセスできる。公文書館のインターネットサイト自体はクメール語中心であるが、オンライン・カタログの部分は英語・フランス語での検索が可能だ。

調査の合間に周辺でお茶をという場合、リッチな気分に浸りたい時はラッフルズホテルの喫茶室が良かろう。ローカルな雰囲気を楽しみたい場合は、隣の国立図書館の敷地内にある屋外食堂でカンボジア・コーヒー(クメール語で「カフェ・トゥック・ドッホ・コー」、練乳入りコーヒー)がお薦めだ。軽食などもあり、昼休みの時間に利用することもできるが、昼休みが異様に長く、屋外で過ごさねばならず、暑い。午後の調査に障りがないよう、一度宿へ戻って休憩する方が良かろう。もし公文書館で集中して調査する場合、プノンペンの北部側に投宿した方が良い。近年は市バス等公共機関が少しずつ整備されてはいるものの、本数や渋滞状況から、バイクタクシーやルモー(荷台付三輪バイク)を利用することが多くなる。それらの値段は近年高くなっているため、徒歩圏内に宿があると公文書館からの移動も楽で、滞在費を安く抑えることができる。

カンボジア図書館公文書館外観(2011年8月筆者撮影。手前は鉢植え専門花屋であったが、最近は閉店し、更地である。)

名称未設定 85公文書館内部(ホームページより)

アクセス Street 61, Oknha Hing Pen, Near Wat Phnom, PO Box 1109, Phnom Penh, Cambodia.
Tel/Fax: +855 (0)23 430 582
Mobile: +855 (0)12 795 245
E-mail: archives.cambodia@camnet.com.kh
図書館ウェブサイト http://nac.gov.kh/
入館・閲覧に必要なもの 特になし(来館時に登録する必要有)
開館日時 月~金 8時~10時半、14時~16時半