【世界の図書館から】中国雲南省檔案局

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中国雲南省檔案局

中川太介

東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程

 

中国における檔案局、檔案館とは主に行政文書を所蔵した施設である。一定期間が過ぎると政府は文書を檔案館に送ることになっている。雲南省檔案局は雲南省政府による、19世紀後半以降の行政文書を所蔵している。

雲南省檔案局は雲南省の政庁所在地、昆明の市街地にあり、中心地よりやや西南に離れた、ビジネスホテルの点在する閑静な団地街にある。すこし足を延ばし15分ほど西南に歩けば雲南を代表する湖である滇池のほとり、大観公園に至る(日本語の音声を発する古い遊具があったり、高射砲を模したシューティングマシンがあったりする)。

雲南省に限らず多くの檔案館では閲覧を希望する場合、パスポートなどの身分証だけでなく、中国の機関からの紹介状が必要となるので、海外からの利用者は留学先や友人などを介して大学などの研究機関から紹介状を入手しなければならない。

雲南省檔案局では閲覧室にある受付でこれらの身分証明を提示して許可があったのち初めて利用できるようになる。一般的に檔案館では何の文書があるか、目録を見て把握する。しかし、これは雲南省檔案局に限ったことではないが目録は手書きによるものが大半で、そこに書かれた字は多くが崩していたり、癖が強かったり、走り書きであったりするなどして大変読みづらい(中国では基本的に簡体字を用いているが、文化大革命の時期に更に省略を加えた簡体字が提案されており、目録でもしばしばこの簡体字を目にする)。

目録から興味のある文書を見つけると、受付で閲覧を申請し、檔案局の許可を待つことになる。檔案は政府の文書であることから、その管理は厳しく特に海外からの利用者には制限が大きい。雲南省檔案局は中国研究者から最も謹厳な檔案館の一つとして名高い。閲覧できる文書には制限がかかるのだが、雲南省檔案局の場合、それが特に厳しい。なお無事に閲覧が許されても文書のコピーや写真撮影は原則不可であり、筆写によるほかない。

中国において特に外国人への公開に慎重なのが国境や民族、宗教などの文書である。とはいえ、これらがどのように抵触するか檔案館の判断には幅がある。例えば一見関係なさそうな、雲南省における商人の活動についての文書を見ようとして閲覧不可の判断を下された場合もある。私が留学していた雲南大学のある教授によればかつて雲南の多くの商人が近隣のチベットやビルマ、ベトナムなどと交易をしており、国共内戦においては諜報活動にも関与した背景があったとのことである。また全く政治上問題のなさそうな分野でも許可されない場合がある。雲南省の塩業についての文書をあたろうとしたが、目録の閲覧の段階で拒否された。

ただこうした閲覧制限は必ずしも日本人など外国人に対してのみ適応されるというわけではなく、中国人でも閲覧できないことも少なくないという。私は2008年から2010年まで留学していたが、その間大学にある党の研究機関に関係する研究者は閲覧の便宜が得やすい、といった愚痴も中国人学生から一、二度聞かされたことがある。

閲覧拒否につき上記のことを理由として言う場合もあるが「プライバシーに関する」と述べられる場合も多い。またデジタルライブラリー事業のため使用中、とされる場合もある。前者については上述の教授によれば国共内戦、或いはそれ以前の省内における武力闘争などには政治的な評価がなお定まっていないものがある。また当時の関係者の遺族や一族で現在政府や党の要職に就いている者も少なくなく、こうした場合には配慮が働くのだという。後者については現在、中国の檔案館では文書をウェブ上でも閲覧できるよう整備が進められている。とはいえ少なくとも留学当時から今に至るまで雲南省檔案局のサイトでは清朝末期及び1940年代後半の一部の時期の文書を除き、多くは表示されていない。

以上のように、雲南省檔案局は文書の公開についてはかなり保守的な態度であり、研究する分野によっては使用に不便を感じるところもある。しかし、所蔵文書の閲覧以外のサービスも行っており、書籍の販売がそれにあたる。雲南省檔案局では所蔵する檔案を編集した史料集を発行しており、檔案局で購入ができる。ただし、中国国内での利用に限ること、国外に持ち出ししないことなどの確認が口頭で行われる。これらの史料集には日中戦争中の雲南省政府と中央政府との電報を収めたものや、上述した塩業に関するものもあり、これらの資料は研究に多く引用されている貴重なものである。

雲南省檔案局は雲南省政府に関する文書を扱っているが、必ずしもこの厳しい管理方針が雲南省すべての自治体の檔案館に貫徹しているというわけではない。持参する紹介状を特に信頼するなどして文書を公開する裁量を行う檔案館も存在する。親切にしてくれた檔案館の職員はよく覚えておき、丁寧な態度でいれば、来訪するたびに気遣ってくれる場合がある。もっとも人事異動があった場合はその限りではなく、注意が必要である。

檔案館の閲覧には職員による裁量が少なくないが、中国内外をとりまく政治情勢も影響を与えやすい。日中関係が悪化すると閲覧許可の裁量が狭まる傾向がある。

図書館ウェブサイト http://www.ynda.yn.gov.cn/ynda/2738188573441261568
入館・閲覧に必要なもの パスポート・中国機関の紹介状
開館日時 月~金:8:00~12:00、14:30~18:00