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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【世界の図書館から】雲南省図書館(中国)

雲南図書館

雲南省図書館(中国)

中川太介

東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程

 

私が2008年から2010年までの雲南大学への留学中、よく足を運んだのが雲南省図書館であった。

雲南省図書館は清朝末期の1909年に設置された由緒ある図書館であり20世紀以降、雲南の歴史書編纂や、歴史資料の収集の拠点として活動してきた。初期の館長には雲南省政府の重鎮が多く歴任している。

場所は雲南省政府の所在地の昆明市中心部にある。省政府から西へ数百メートルほど歩くと緑豊かな翠湖公園に至るが、雲南省図書館はちょうど翠湖公園を挟んだ対岸にある。ちなみにこの公園のほとりには雲南省図書館だけでなく雲南陸軍講武堂、雲南大学、雲南省長旧宅など、中華民国史にゆかりのある歴史的な建築物が並んでいる。雲南陸軍講武堂は公開されており、当時の日本式軍事教育の風景を収めた写真などが見られる。雲南省長旧宅「盧漢公邸」は国共内戦末期、雲南を共産党との対決の拠点に活動していた国民党の将軍たちが省長に監禁され、雲南省の共産党政権入りの契機となった事件の現場である。また雲南諸図書館正門の道路を挟んだ向かいにも清朝以来の建築物である石屏会館がある。

さて、雲南省図書館であるが来館してすぐ本の閲覧ができるわけではない。2階の受付でパスポートなどの身分証を提示した後に発行される図書カードを係員に見せないと各図書室に入室できない。

建物は高層ビルであるが通常、図書室は2階から5階までである。1階は講演ホールやレストラン、書籍補修部などがある。2階は受付のほか、新聞閲覧室や児童図書室、新刊閲覧室などがあり、3階、4階、5階にかけて自然科学、社会科学、文芸、外国語、地方文献、歴史文献などのジャンル毎の図書室があるほか、コンピューター室などがある。

いくつかの図書室では配架書籍の閲覧だけでなく、自習のための利用もでき、多くの大学生や高校生などの勉強風景を目にすることになる。また地方文献を収めた図書室のうち1つは対外に開放されていない。ガラス戸ごしに見れば蔵書は雲南省の各地方自治体の現代地方史の類であることがわかる。ちなみに外国人は基本的に地方文献をはじめ書籍の貸し出しができないなどの制限がある。

私が専ら利用した図書室は、地方文献に関する一室である。ここには清朝期以来の漢籍や新聞、雑誌、個人の書簡集などが収められている。とはいえこれらは配架されているわけではない。どのようなものが所蔵されているか、図書室のそばにある棚の書籍カードを1枚づつあたってその概要を把握するほかない。一方配架されているものの多くは工具所や日本でも閲覧可能な全集だが、中には雲南省独自の地方史書もあるので見逃せない。

さて書籍カードなどから読みたい文献を見つけると、図書室内にいる係員の人に申請するわけだが、やはりここでもすべてが閲覧できるわけではない。図書館側が提供不能と判断するのは現物が経年劣化している場合(特に新聞が多い)や、政治的理由からである。前者について実際に補修中のため、と言われることがある。また仮に申請が通ってもページをめくるのさえ憚れるほど損傷が激しいものがある。後者については、よく「対外開放していない」、と言われ、特に国境や民族、宗教に関するものに関しては外国人への閲覧の制限が厳しいようである。

これらの地方文献の古籍の一部については、マイクロフィルムでの閲覧が可能である(私の滞在中に限って言えば雲南省図書館に置かれていたマイクロリーダーは故障中として始終使用ができなかった)。このマイクロフィルムは中国の国家事業の対象でもあるので、このなかの更にいくつかは東方書店などを通じて日本からでも数万円で購入が可能である。

閲覧者は学生や中高年の市民が多い。たまに私以外の海外からの研究者、留学生の姿も見られる。閲覧者が地元の雲南人である場合、係員との雲南方言の会話が聞ける(「去」の発音を標準語のquとはせずにkaとするなど、一部に日本の漢字の音読みとの類似性がみられる)。私個人の思い出で恐縮だが、上海から来訪していた家系図(「家譜」)職人の方が印象的であった。もともと世襲の職業であったが、中華人民共和国に入り、文革終了まで仕事ができず、1980年代から徐々に仕事が増えていったとのことである。依頼のあった一族の資料を探すため図書室の文献をあたっていたのであった。

文献を閲覧してぜひ研究に利用したい、と思ってもこれらの歴史地方文献はコピーや撮影が原則禁止である(撮影は一生涯4枚まで可能)。したがって筆写を余儀なくされ、在室のうち大半が筆写の時間となり、朝9時から夕方5時の閉館までの在室が珍しくなかった。

雲南省、特に昆明においては南方の高原ということもあり1年を通して概して温暖な気候が続く。そのことから特に公的な建物の内部では空調や暖房がないのが一般的であり、雲南省図書館も例外ではない。ところが冬、寒気が月に一二度訪れることがあり、その際はほぼ東京と変わらない寒さとなる(降雪は昆明では珍しいらしいが私の滞在した2年とも降雪があった)。このような場合、図書館が独自の判断で閲覧者に暖を提供するということはない。そればかりか係員が換気の習慣と称して閲覧室のあらゆる窓を全開にしたりする(係員の席にはお湯のでる給水器があるが閲覧者は利用できない)。冬に利用する際は服装などに注意し、日本からホッカイロを持参するか、熱い飲み物を入れた魔法瓶を代替に持っていくといいだろう。

 

図書館ウェブサイト http://www.ynlib.cn
入館・閲覧に必要なもの パスポート(一部閲覧室は中国機関の紹介状)
開館日時 月~金:9:00~12:00、13:00~17:00