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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

EVENT

【報告】アジアンライブラリーカフェno.002 古典籍 on flickr!~漢籍・法帖を写真サイトでオープンしてみると~

U-PARLの新規イベント「アジアンライブラリーカフェ」の第二弾が2017年10月20日に開催されました。おかげさまで、早くからたくさんの申し込みがあり、会場は満席となりました。

 

U-PARLでは漢籍・碑帖拓本資料の高精細画像をflickrで公開しております。未見だという方は、よろしければ以下のサイトをご覧下さい。

【DIGITAL LIBRARY】漢籍・碑帖拓本資料
http://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/wp/japanese/kanseki-hijo

flickr(フリッカー)
https://www.flickr.com/photos/asianresearchlibrary/collections


ASIAN LIBRARY CAFÉ: 002
古典籍 on flickr!〜漢籍・法帖を写真サイトでオープンしてみると〜
2017年10月20日(金)17:30〜19:30
東京大学本郷キャンパス
伊藤国際学術研究センター 中教室(3階)


今回のカフェでは、U-PARLがflickrを選択した背景から始まり、資料の概略、公開におけるライセンス表示、資料の統合メタデータ、flickrと図書資料の構造、flickrから外部データベースへの連携について、5名の研究者によるリレー形式の発表が最初に行われました。

はじめに ― なぜU-PARLはflickrを選んだのか? ―
冨澤 かな(U-PARL副部門長)

最初の発表は、U-PARLの冨澤特任准教授によるflickr利用の背景と展望でした。システム作成の背景にあったのは、限られた資金と人力のなか、シンプルでいながら「見つかる」「使える」「持続する」アーカイブをつくるにはどうすればよいのか、大学全体のデジタルアーカイブ基盤構築や、その向こうに想定される日本全体のデジタルアーカイブ基盤の構築と断絶させず、単独でも使えるアーカイブにするにはどうしたらよいか、という問いでした。この問いに対する一つの答えがflickrの利用であったわけです。flickrの利用は、デジタル資料公開の「小さいモデル」「裾野のモデル」として、高度で大規模なデジタルアーカイブ構築と繋がり、かつ共存できるものであることが示されました。
→ 配布資料PDF(冨澤)

コンテンツの概略とライセンス
成田 健太郎(U-PARL特任研究員)

成田研究員からは、画像公開を行った11種類の資料(漢籍1種、法帖拓本7種、版刻法帖3種)の概要について最初に紹介がありました。続いて、ライセンス表示の設定に至る考え方が示されました。画像の公開にあたって、U-PARLではCC(クリエイティブ・コモンズ)ライセンスを採用し、CC BY-NC-SA 4.0(表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際)を選択しています。CCライセンスは、本来著作権者がその権利を部分的に開放する意思表示なのですが、すでにパブリック・ドメインに帰した平面資料のデジタル画像がCCライセンスで公開されている例も少なくありません。
→ 配布資料PDF(成田)

漢籍・法帖の統合メタデータの考案 ― 経緯と内容 ―
木村 拓(鹿児島国際大学)

続いて、元U-PARL特任研究員、現鹿児島国際大学准教授の木村氏より、漢籍と碑帖拓本という、近接しつつも異なる資料種を記述するために考案したメタデータの構造と内容について、詳細な説明がありました。特に碑帖拓本資料の成立過程の重層性に対応するために、FRBRの設定する4つの階層を参考にしつつも、独自に内容を検討し、(1)データ、(2)著作、(3)バージョン、(4)資料化、(5)個別資料、という5つの階層のもとでメタデータを管理するに至ったことが解説されました。なお、U-PARLが設定したメタデータについては、漢籍・碑帖拓本資料メタデータ項目および目録規則[Excel:22KB]でご確認頂けます。→ 配布資料PDF(木村)

図書とflickrの親和性 ― 構造と粒度の設定 ―
永井 正勝(U-PARL特任研究員)

永井研究員からは、図書の構造を踏まえたflickrの設定について説明がありました。図書とその画像は「1件の図書>冊>ページ画像」という階層を構成していることを踏まえ、写真番号(例:ASIA0001-01-0001.jpg)もそれに対応させ、ASIA0001(資料番号)、01(冊番号)、0001(冊の中での画像の番号)としたこと、またflickrでは、画面上の「album」を書籍の「冊」に対応させ、その上位にある「collection」を「1件の図書」に対応させたことが説明されました。
→ 配布資料PDF(永井)

flickrにもう一工夫でできること
中村 覚(東京大学情報基盤センター)

情報基盤センター助教の中村氏からは、flickrに掲載した画像とU-PARLが作成したメタデータを利用して、検索システムを別途に設置する試みが説明されました。具体的には、オープンソースソフトウェアであるOmekaを用いた検索システムの試作、IIIF(International Image Interoperability Framework)やLinekd Data等の情報技術を用いた公開画像の活用の可能性について報告がありました。
→ 配布資料PDF(中村)

5名によるリレー報告を受け、京都府立図書館の福島氏より示唆的なコメントを頂きました。そのタイトルは、「スリムモデルのトップランナーへ 」でした。

コメント ― スリムモデルのトップランナーへ ―
福島 幸宏(京都府立図書館)

スリムモデルとは「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」(2017年4月公開)の議論に際して提起された発想であり、持続可能性がその発想の前提に存在していました。簡単に言えば、「あれもこれも」ということではなく、「せめてこれだけは」というものに絞り、システムを維持していこうという発想です。U-PARLの今回の試みは、大学におけるスリムモデルとして、「見事な優先順位の選択」がなされているとの評価を福島氏より頂きました。また、ライセンス表示については、PDへ向かう必要があるのではないかとの意見が出されました。その他、ユニークIDへの展望、外部からのアプローチへの姿勢、評価とインセンティブの獲得、プロジェクトの”意思”のマイグレーションについて、貴重な提案がなされました。
→ 配布資料PDF(福島)

今回のイベントに際して、人文情報学研究所の永崎氏より、書面によるコメントを事前に頂きましたので、簡単にご紹介します。

永崎 研宣(人文情報学研究所)からのコメントの要旨

人文情報学研究所の永崎氏からは、私企業の提供する無料サービスを利用する上での利便性と問題点を踏まえたうえで、(1)flickrサービスの持続性、特にURL・URIの持続性の担保の問題、(2)omeka導入とその管理者のコストの検証、(3)メタデータ項目や検索手法が可能な限り多様なユーザを想定したものであるのか、という点について話題提供がありました。
→ 配布資料PDF(永崎)

その後、参加者を交えた質疑応答があり、メタデータスキーマを公開すべきではないか、FRBRの深い活用法は何か? 学術論文での引用作法はどのようなものか? などが議論されました。

質疑応答の内容メモ(福島氏による板書)

議論が尽きないところでしたが、制限時間いっぱいとなり、カフェ002は盛況のうちに終了となりました。参加して下さった方々にお礼を申し上げます。

【2018.3.1追記】
本イベントの報告は『情報の科学と技術』68巻3号にも掲載されています。あわせてご覧下さい。
デジタルアーカイブの「裾野のモデル」を求めて -東京大学附属図書館U-PARL「古典籍on flickr!~漢籍・法帖を写真サイトでオープンしてみると~」報告