2022年2月、元U-PARL特任研究員の河﨑豊氏が中心となったアジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)協働型アジア研究プロジェクト「「ジャイナ教混淆サンスクリット辞典」構築のための基礎的研究」の成果の一部として、“New and Rare Words” Collected by Helen M. Johnson from Hemacandra’s Triṣaṣṭiśalākāpuruṣacaritraが発行されました。
ジャイナ教徒が用いるサンスクリット語がしばしば規範的文法を逸脱し、ヒンドゥー教や仏教の文献には存在しないか、あるいは土着の辞典以外には用例を確認できない特殊な語彙をたびたび用いることはよく知られています。しかし、同様に規範的サンスクリットから逸脱するサンスクリット語、いわゆる Buddhist Hybrid Sanskritを仏教徒が用い、それに関する数多くの研究成果が蓄積されてきたことに比べると、ジャイナ教徒の用いたサンスクリット語に関する研究はほとんど進展していません。とりわけ、ジャイナ教徒が用いたサンスクリット語に特化した文法書や辞典が存在しないことは、ジャイナ教サンスクリット文献を読むうえで大きな足かせとなっています。
本書は、このような状況を打開するための第一歩として企画されました。白衣派ジャイナ教の僧侶であったヘーマチャンドラ(1089-1172)が著した、三万余詩節にわたる『トゥリシャスティ・シャラーカー・プルシャ・チャリトラ』(『六十三傑人伝』)は、アメリカ人研究者ヘレン・M・ジョンソン(1889-1967)が生涯をかけて全訳しました。その英訳全六巻の各巻の付録には、New and Rare Wordsと称して『六十三傑人伝』が用いる独特のサンスクリット語彙が収集されています。本書は、英訳各巻で集められた語彙を集約して配列しなおし、誤植や誤記の訂正といった必要な訂正をほどこしたうえで、参照すべき一次・二次文献の情報を追記したものです。また付録として、同じくヘーマチャンドラによって著された Yogaśāstra とその自注に見いだされる、『六十三傑人伝』に対応する詩節の一覧を収めています。
今後、この研究成果についてPDFによる公開を予定しております。
March 9, 2022
“New and Rare Words” Collected by Helen M. Johnson from Hemacandra’s Triṣaṣṭiśalākāpuruṣacaritra
Yutaka Kawasaki 河﨑 豊 (東京大学アジア研究図書館研究開発部門)
Yumi Fujimoto 藤本 有美 (宮城県農業高校)
Shin Fujinaga 藤永 伸 (元都城工業高等専門学校)
Kazuyoshi Hotta 堀田 和義 (岡山理科大学)