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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

講演会の記録と参加者の声

U-PARL特任研究員  アクマタリエワ ジャクシルク

 

2025年5月9日、展示会「絵と詩 少数民族ショルのこころ」の記念講演会「少数民族ショルについて語ろう」を東京大学総合図書館別館ライブラリープラザで開催した。学内外より多くのみなさまにお集まりいただき、消滅危機言語への関心の高さがうかがわれた。 

今回の講演会は企画した当初から「堅苦しくなく、リラックスした雰囲気での対話」というのが大事なポイントであった。そのために、一方的に講演して、その後、質疑応答という形ではなく、講演のあと、参加者同士が意見交換を行うという形をとった。参加者の多くが、期待以上に、積極的に話し合っている様子がうかがわれた。

その後、総合図書館展示スペース移動して講演者によギャラリートークを行った。ここでも参加者と積極的な対話ができ、ショルに対する理解が深まったように思う 

講演会の後に実施したアンケートには計22件の回答をいただいた。その結果を報告しておきたい。 

 

参加者の感想の傾向 

まず、多くの参加者がショル語の消滅危機状況に驚きを受けており、「ショル語話者が(ショル人の)わずか10%しかいないことに驚いた」「消滅言語による文化の消滅は人類にとり、大きな損失だ」といった声が寄せられた。 

また、ショル語による絵や詩といった芸術表現にも強い関心が示され、「詩の押韻はどのぐらい厳密か」などの詩の構造に関する感想がみられた。絵と詩の表現は、文化の豊かさとアイデンティティの根幹をなすものとして、多くの参加者の心を動かしたようである。 

さらに、ロシア正教とシャーマニズムが同時に存在し共存している点に対して、「異なる宗教観が共に根付いていることが興味深い」、「テュルク系の言語はイスラーム系文化との関連で見ることが多かったので、このような文化を保ち続けている文化を知れてとてもおもしろかった」という宗教への関心が寄せられた。 

加えて、日本文化との比較や自身の経験と重ね合わせる視点も見受けられた。「アイヌ語や沖縄語(琉球語)を思った」「文化を残すために国の保護が必要だ」という意見もあり、日本国内における言語状況にも関心が広がっている様子がうかがえた。これにより、ショル文化への理解が、参加者自身の文化を見つめ直す契機となっていることが伝わってくる。 

 

参加者の関心の先に見えるものとは 

参加者からは、ショル文化や言語に対する多角的な関心が寄せられ、様々な意見や提案をいただいた。 

デジタル・アーカイビングに関しては、ショル語や文化の保存と次世代への継承の手段として、「多言語への翻訳もとりわけ大事だ」、また「気軽に学べる絵本などがあると親しめる」といった、若年層へのアプローチの重要性を指摘する意見が見られた。これらの提案は、企画者としてはしっかり受け止めたいと思う。 

展示や活動の継続に関する希望も多く寄せられた。特に、「このような機会がもっと増えてほしい」との声や、「このような言語の展示をしたりすることがとてもいい提案だ。言葉の博物館(どちらかというと万博ですね!)のように色々な人々に危機言語を実際に聞いて読めたらいい」という具体的な提案も見られ、関心を一過性のものにせず、継続的な学びや交流の場として発展させていくことの重要性が強調された意見もあった。 

ショル文化に対する具体的な質問も寄せられた。例えば、「シャーマンになるための資格とは?」「シャーマンは占いを行うのか?行うとすれば、どのような言葉を使うのか?」「ショルの絵画に使われている絵具の材料は?」「叙事詩は現在いくつ現存しているのか?」「ショル語における文字や正書法はどのように形成されたのか?」など、専門的かつ詳細な関心が見られた。これらの質問は、ショル文化に対する理解をさらに深めたいという参加者の強い意欲の表れといえる。 

 

今後の期待と改善点について 

参加者からは、ショル語に関する理解をさらに深めるために、改善の提案や今後の取り組みに対する期待も寄せられた。 

まず、映像や音声資料のさらなる充実が望まれている。特に「実際に話されているショル語の映像をもっと見たかった」との声があり、言語のリアリティを直接感じられるコンテンツへの関心が高いことがうかがえる。 

次に、他言語との比較を通じた情報提供の強化も期待されている。「方言と消滅危機言語の違い」や「他地域との比較」といった観点から、ショル語の特性や課題を相対的に理解できる構成への要望が見られた。 

 

参加者の満足度(アンケート結果より) 

参加者の満足度に関して、「期待に応えられたか」という問いへの回答結果は次の通りである。16件が「期待していた知識や経験が得られた」と回答しており、内容は一定の期待に沿うものだったといえる。「期待していた以上の知識や経験が得られた」とする回答は1件で、ごく一部ではあるが高い評価も見られた。一方、「期待していたものとは異なる知識や経験が得られた」と回答したのは5件であり、内容に対する期待とのギャップが存在したこともわかった。 

今回の講演会を終えて 

講演会の企画当初は、「果たして本当に講演を聞きに来てくれるのだろうか」と、不安な気持ちでいっぱいだった。ところが、いざ開催してみると、想像以上に多くの方々が関心を寄せ、足を運んでくださったことに、企画者として大きな驚きと喜びを感じた。今回は、世界に数多く存在する消滅の危機に瀕した言語の中から、ショル族のショル語を取り上げた。一つの事例にすぎないが、それでも参加者の皆さんがショル語やその背景について理解を深め、大きな学びや気づきを得てくださったことを実感している。 

ある参加者からは、「母語がなくなる…というのを想像したことがなかった。でも日本語の将来もわからないな…と思いました。“知る”ことが大切‼」、また「日本語も幼少期からの英語教育や人口減少時代を迎え、必ずしも他人事ではないと感じました」といった生の声が数多く寄せられた。 

今回、何よりも意義深かったのは、言語の消滅という問題が「遠い世界の出来事」ではなく、自分たちにも関係のある問題として受け止められたことだ。実際、多くの参加者が日本文化とのつながりに気づき、共感を示してくださった。 

今後は、より多様な資料や視点を取り入れ、参加者と双方向に学び合える場としてさらに発展させていきたいと、強く感じている。 

講演会に来てくださったすべての皆さん、ありがとうございました。 

5.Jun.2025