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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

2023年版リーフレットのデザイン、“アジアの文字”

English

U-PARLは2023年版のリーフレットを発行しました。

今年のリーフレットにも、アジアの風景や布、文字がデザインされています。特に印象的なマンダリンオレンジの表紙には、ベトナム語、中国語、ウルドゥー語に加え、フランス語のテキストが記載されています。これらのテキストの原典やテキストの中で使用されている文字について、U-PARLの澁谷由紀特任研究員と須永恵美子特任研究員が解説します。

 


ベトナムのホーチミン市にある玉皇殿(Điện Ngọc Hoàng)について

 リーフレットには、ベトナムのホーチミン市第一区ダカオ(Đakao)地区に現存する宗教施設・玉皇殿(Điện Ngọc Hoàng)に関する解説書であるPagode de Dakao(A.-E Lelièvre et Ch.-A. Clouqueur, Saigon : C. Ardin , 1914)で使われた文字がデザインされています。
 玉皇殿はルー・ミン(Lưu Minh)という名の華人によってフランス植民地期の1900年から1906年にかけて建設されたインドシナ華人の宗教施設です。フランス植民地期、この宗教施設はフランス人からダカオのパゴダ(Pagode de Dakao)と呼ばれ、そのシンクレティックな内部空間がフランス人東洋学者に着目されていました。近年はバラク・オバマ元米大統領が2016年5月のベトナム公式訪問の際に立ち寄ったことで知られています。
 本文中には玉皇殿の沿革、建築、内部構造、祭神についての説明がフランス語で記述されています。さらに、祭神名については漢字とそのベトナム語音も併記されています。

玉皇殿の外観(2004年)

澁谷由紀(U-PARL特任研究員) 


ウルドゥー語文芸雑誌『新月』と地域語文学について

 

 リーフレットにデザインされているアラビア文字は、パキスタンの文芸雑誌『新月』のウルドゥー語の記事・広告がコラージュされています。パキスタンは多言語社会で、国語のウルドゥー語や、ビジネスや公官庁で使われる英語を共通語とし、他にも30~60と数えられる大小さまざまな言語が話されています。国語であるウルドゥー語を母語とするのは人口のわずか8%で、大多数の家庭やコミュニティ内では様々な地域語が綿々と受け継がれています。
 地域語がそれぞれの文化において重要なことは明白ですが、では「文学は何語で楽しまれているのか」と聞かれると、少し込み入った状況を説明しないといけません。民謡や童謡、舞踊、地元の人形劇やシアタードラマ(舞台劇)は各地域の言語で演じられます。コークスタジオ(Coke Studio)という2008年に始まった音楽テレビ番組では、ブラーフィー語やサラーエキー語といった地域語の民謡がリミックスされ話題になりました。
 ところが、こうした地域語の多くは文字を持っていません。地域語の中でも比較的広範囲で使われるパンジャービー語やスィンディー語には文字がありますが、地域語には「書かれたもの」自体に縁がない言語がたくさんあります。書かれない/文字でやり取りされない言語では、文化について論じたり口承の物語や戯曲を書きあらわす際に、雑誌『新月』をはじめとしたウルドゥー語で表現するという捻じれがあります。

『新月』に掲載されたパンジャービー文学、スィンディー文学の新刊の広告。紹介されている新刊・紹介文はウルドゥー語
雑誌『新月』1950~60年代(発行地カラチ)。表紙は毎号意匠が凝らされていた。写真中央の表紙の右上には、新月(Mah-e Nau)という雑誌名がモスクのドームとミナレット(塔)の絵で表されている。右上はブラーフィー語詩についての論稿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須永恵美子(U-PARL 特任研究員


May 23, 2023

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