千葉大学ALC(アカデミック・リンク・センター)は、千葉大学西千葉キャンパスにあり、附属図書館本館としてだけでなく、千葉大学が実践している「アカデミック・リンク」の拠点としても機能しています。U-PARLでは去る5月8日、千葉大学の皆様のご厚意によりこのALCを見学させていただきました。
ALCは、「考える学生の創造」を目的とする新しい図書館として2012年にリニューアルオープンされました。上の写真のとおり、ガラス張りで館内の様子が外からもうかがえ、L(Learning)棟・I(Investigation)棟・N(Networking)棟・K(Knowledge)棟の四つの建物からなる図書館が文字通りLINKして学生の主体的な学習活動を支援している様子が、一見してよく分かりました。
アジア各地の研究図書館の薄暗い閲覧室に慣れすぎたわれわれU-PARL一同をまず驚かせたのは、アクティブ・ラーニング・スペースという空間の存在です。ここでは机や椅子を自由に動かし、たくさんのグループが対話をしながら授業の課題などさまざまな学習活動に取り組んでいます。咳払いさえためらわれる「図書館」という概念はここにはありません。あるのは学生たちの活気に満ちた声と豊かな表情です。
複数人で一台の教育用端末を使うこともでき、ここかしこで活発な議論が行われている。
アクティブ・ラーニング・スペースには、学習支援デスクというコーナーもあり、学習について困ったことがあれば、ALSA (Academic Link Student Assistant) という学生相談員や図書館員、教員に相談することができます。
ALSAによる分野別学習相談コーナー。曜日時間により「数学」「化学」「物理」「文系のレポート作成」などについて気軽に相談できる。
以上のように図書館が学生のアクティブ・ラーニングの場として非常にうまく機能していることは、U-PARL一同の耳目を一新しました。しかし同時に、このような空間ばかりでは、「ひとり静かに本の世界に没頭したい」というタイプの学生が図書館から離れてしまうのではないか?との疑念も頭をよぎります。しかしそれはまったくの杞憂でした。館内には対話が禁止されているエリアもあり、なかにはパソコンなどのキーボード操作も禁止という静寂空間さえ設けられているのです。しかもこのような細かいルール設定は、下の写真のようにわかりやすく図示されており、利用者が迷うことはありません。
「音」を最も厳しく制限する空間。右端のアイコンが示すタッチパネル機器の操作のみ可。
また、対話可の空間の中でも、多くの学生が集まって活発に議論するエリアと、各人が比較的静かに自分一人の学習に集中するエリアとは、誰が決めたわけでもないのに自然に分かれているように感じられました。人間の集団が相談するでもなく自然のうちに最適解を獲得するこのような現象、なにか社会学的考察の対象にならないものでしょうか?
比較的静かな閲覧席。十分な間隔があり、隣り合って座ってもストレスが少ない。
ALCでは、学生に対する学習支援だけでなく、教員に対する教材作成支援も行っています。下の写真のコンテンツ制作室では、教員が授業で使用する教材を開発したり、学生が研究発表のための資料を編集したりすることができます。学生だけでなく教員も日頃から学習し向上つづけることが求められる昨今、このような支援の場が図書館にあることはありがたいと感じます。
I棟のコンテンツ制作室。eラーニングのプラットフォームMoodleについても相談できる。
ALCには、これからの大学図書館が目指すべき一つの方向、「アカデミック・リンク」を最もはっきりとした形で見せていただきました。U-PARLが目指しているアジア研究図書館のあり方と完全に一致するとはかぎりませんが、資料を収蔵し閲覧に供するという図書館の基本的役割にとどまらず、人々が集う場を作るという点では、今後ALCから学ぶべきところが少なくないと感じました。アジア研究図書館を新しいアジア研究の拠点、多分野の研究者の交流の場にできるよう、そして何よりも、千葉大学ALCのように多くの来館者に親しんでもらえるよう、決意を新たにしたU-PARL一同でありました。
図書館の正面には「かたらいの森」があり、図書館とともにアカデミック・リンクの環を形づくっているようだ。
U-PARL特任研究員 成田健太郎