特任研究員 須永恵美子
U-PARLのロゴマークをご覧になったことがありますか?マンゴー・勾玉・ペイズリー文様がモチーフになっています。最近では、コンビニスイーツなどあちこちでマンゴーを見かけるようになりましたが、ミカンやリンゴに比べるとまだまだ珍しい高級果物という印象です。今回は、アジアの各地で食されているマンゴーの中でも、「世界一のマンゴー」を自称するパキスタン・マンゴーのお話です。
パキスタンの王様マンゴー
南アジアのパキスタンでは、マンゴーは「果実の王様」と言われ、広く庶民に愛されています。5~9月がシーズンで、特に5、6月の酷暑期には、たくさんのマンゴー売り屋台が並びます。ピクルスやチャツネにすることもありますが、やはり生のままで食べるのが一番です。季節の移ろいとともに出回るマンゴーの種類も少しずつ入れ替わり、辛い暑さを癒やしてくれる夏限定の楽しみです。国内では150種以上が栽培されており、主な品種は大ぶりな楕円形のスィンドリー、世界中に輸出されているチョウンサー、皮が薄くて小ぶりなアヌワル・ラトゥール、緑色で香りの強いラングラー、青白い皮のファジュリーなどです。現地では一つ20円~80円程度で、キロ単位で売っています。パキスタン人のマンゴーへの情熱は凄まじく、お薦めの産地や銘柄をいくつも教えてくれます。
パキスタン・マンゴーの特徴は、繊維が多いこと、そして何より糖度が高いことです。日本のマンゴーは糖度が15度程度らしいのですが、パキスタンではなんと21~24度もあります。口に入れた瞬間から唸りたくなるような強烈な甘さで、果物というよりもスイーツです。
マンゴーは飲み物です(?)
日本では、2012年からイオンなどでパキスタン・マンゴーを見かけるようになりました。常温で2~3日置いておき、香りが強く、柔らかくなったら冷蔵庫で保管します。厚めの皮がだぶついて、しわしわとしてきたら食べごろです。
日本では写真のような花咲カットを見かけますが、パキスタンの家庭では、皮のついたまま細長い短冊状に切り落とし、かぶりつくのが一般的です(写真は和新トレーディングから通販したチョウンサー)。両手でマンゴーをよく揉みほぐし、ヘタを切り落としてチューチューと吸うのも通な食べ方です。完熟した果肉を噛むと、濃厚な果汁がジュワッとあふれだし、手や口がベタベタになります。
マンゴーと本
東京大学の図書館には、マンゴーに関する様々な書籍が所蔵されています。一部を取り寄せてみましたのでご紹介します。
左上: ブラジルでの生産や流通をまとめた報告書で、「サンパウロでは昼食時に多く食べ、他の州都では食事以外の時間に食べることが多い」(p12)など、食文化についても言及があります。(中央果実基金 2003 「ブラジルにおけるマンゴーの生産・流通事情調査報告書」東京: 中央果実基金 p1)
右上: 同じくインドのマンゴーに関する報告書です。インドはマンゴーの生産量、栽培面積ともに世界一で、「世界の総生産におけるシェアは43.3%」(p24)を占めます。品種も1000種を越えます(p67)。(中央果実基金 2001「インドにおけるマンゴーの生産・流通事情調査報告書」東京: 中央果実基金 p58, 59)
左下: パキスタンのズィヤーウルハック大統領(1977-1988在任)が、飛行機の墜落事故で亡くなった事件をもとにした小説です。お土産のマンゴーの木箱の中に爆弾が仕掛けてあったと言われています。(Mohammed Hanif 2009 “A Case of Exploding Mangoes” New York: Vintage Books)
中下: 台湾のマンゴー生産についての、台湾総督府による報告書です。もともとは1911年に出版された報告書があり、本書は第2弾として新たな改良品種などが追加されています。([台湾総督官房調査課] 1926「マンゴー」[台北]: 臺灣總督官房調査課 p32)
右下: フランスから出版された、経済協力開発機構の果物や野菜の国際基準を検討するための小冊子です。マンゴーのほかにも、キウイや杏、アボカド、レタスなどのシリーズが出版されています。(Organisation for Economic Co-operation and Development 1993 “Mangues=Mangoes” Paris: Organisation for Economic Co-operation and Development p19)
他にも、イブン・バットゥータの旅行記の中にもマンゴーが出てきますし、インドを代表する詩人ガーリブが詠んだマンゴーの讃歌もあります。皆さんもぜひマンゴーを片手に読書を…と言いたいところですが、果汁が飛びますので、大切な本は片付けてからお召し上がりください。
August 30, 2021