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『忠義水滸全伝』
・文学部漢籍コーナー蔵本
・東洋文化研究所倉石文庫蔵本
『忠義水滸全伝』は、百二十回本水滸伝の祖となった版本です。しかし、現存する点数は多くもなく、閲覧もさほど便利ではないのが現状です。このたび、文学部漢籍コーナー、東洋文化研究所のご理解とご協力のもと、東京大学に所蔵される2点の全ページ、フルカラーの画像を公開できることになりました。ぜひご活用ください。
※文学部漢籍コーナー蔵本は、最初の3冊が早くに失われ、第1冊は旧蔵者により後継本である「忠義水滸全書」を書き写したもので補われています。このため、東京大学OPACには「忠義水滸全書」と登録されています。ご注意ください。
『忠義水滸全書』
・総合図書館蔵本
上記『忠義水滸全伝』の後継テキストです。『全書』は「水滸伝」諸版本のなかでもとりわけ多く流通していたと思われるものです。日本にも数多く将来され、現存が確認できるものだけでも四十点以上にのぼるとの研究があります。『全書』の版本は何段階かに分かれ、今回公開するものはどちらも部分的な補修を経て比較的後に印刷された版にあたります。テキストとしてはそれほどめずらしいものではないのですが、図を含めた全巻そろっているうえに保存状態もよいものです。そしてなにより、おそらく江戸時代の学者による、他の六種の「水滸伝」テキストとの文章の異同が所狭しと書き込まれていることが目を引きます。江戸時代に各種「水滸伝」が日本に入ってきていたこと、テキストの違いに着目しこれを研究しようと考える風があったこと、そして実際に各種テキストを対照する環境を整えることができたことなどがわかり、江戸時代に「水滸伝」研究のレベルの高さの一端がうかがえます。
・総合図書館蔵残本
『忠義水滸全書』の第64回から第67回のみを存する残本です。こちらも比較的遅い版にあたります。水をかぶった跡があり、よくぞいまの時代にまで生き残ってくれたとの感を抱くとともに、大きな紙の破損などは少ないことから、傷んでしまった書物をこれ以上傷つけないよう大切に保管してきた過去の人々の苦労がしのばれます。
『第五才子書施耐菴水滸伝』
・東洋文化研究所雙紅堂文庫蔵本
明末の人・金聖歎が百二十回本の『全伝』ないし『全書』をもとに、大幅な改作を施してできた「水滸伝」です。「貫華堂本」「金聖歎本」の名でも知られます。金聖歎は自身の価値観、文学観、言語感覚を理論化し、「水滸伝」を通じて表現しました。「水滸伝」史上でも重要な意味をもつテキストですが、それだけに伝存する版本や後継の版本も多く、現代のわれわれも比較的容易にそのテキストに触れることができます。しかしながら、今回公開する東洋文化研究所蔵本にはさらに江戸時代の儒学者・清田澹叟および昭和の書誌学者・長澤規矩也の書入れが残されています。かつての日本の学者たちが「水滸伝」をどう読んだのか、どのように分析していたのか、どのような資料として利用していたのかなどがうかがえる貴重な資料であり、東洋文化研究所のご協力のもと、全ページフルカラー画像を公開することにいたしました。
この5点を仲間に迎え、「水滸伝コレクション」は総勢10点となりました。どしどしご活用ください。
September 19, 2023