特任研究員 アクマタリエワ ジャクシルク
Akmatalieva Jakshylyk
私はチュルク諸語の研究をしています。皆さん、「チュルク諸語」という言葉を聞くと、何語を想像するのでしょうか?なんとなく一番初めに頭に浮かぶのは、「トルコ語」ではありませんか?皆さんの中には、「トルコ語=チュルク語」と考えてしまう方もいるかもしれません。そう考えても仕方がありません。
それは、「トルコ」と「チュルク」は、同じ語だからです。それで混乱してしまう方もいらっしゃいます。私の研究を紹介する前に、この混乱を少しだけ解いておきたいと思います。
日本語の「トルコ」も、「チュルク」も同じtürkという語なのです。このtürkという語を、チュルク系民族は「テュルク」と発音します。つまり、「トルコ」も「チュルク」も本来は、「テュルク」と発音されるということです。日本語で「トルコ」や「チュルク」になってしまった背景は日本語にtü「テュ」という音がないからですが、元々は同じ語ということだけを抑えておきましょう。
日本国内において、国名を指す「トルコ」は浸透していますが、一方の「チュルク」の使用には揺れが生じています。特に、この揺れがはっきりと出るのは、日本国内における研究者らの間です。例えば、言語学の研究者の間では、「チュルク」と呼ばれていますが、一方で、歴史や考古学などの研究者は「テュルク」と呼ぶことが多いです。つまり、分野や研究者によって異なるということです。そう指摘している私自身は、日本語で論文を書く時、日本国内の言語学者が使う「チュルク」を使っていますが、心の中ではどうしても違和感があります。どちらかに統一しようと言いたいところですが、すぐに、そう簡単に解決しないのが現状です。
アジア研究図書館「中央ユーラシア」の書架。チュルク諸語の資料はここに並びます
では、ここで、もう一度、おさらいをしておきますね。
まず、「トルコ語」は、トルコ共和国のトルコ語を指します。
次に、「チュルク諸語」は、中央ユーラシア大陸に広く分布するチュルク系民族の同系統の言語すべてを指します。そこには、トルコ共和国をはじめ、中央アジア全体や東シベリアにまで至る広い地域が含まれます。チュルク系の言語は、なんと30以上もあるのです!トルコ語もそのうちの一つです。筆者の母語であるキルギス語も「チュルク諸語」の一つです。つまり、チュルク系民族の言語をまとめて「チュルク諸語」と呼んでいるわけです。
「チュルク諸語」は、親戚関係にある言語です。どうして親戚だと言えるのでしょうか?例えば、簡単な数詞の例をあげておきます!
数詞 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
トルコ語 |
bir |
iki |
yt͡ʃ |
dørt |
beʃ |
altɯ |
yedi |
sekiz |
dokuz |
on |
キルギス語 |
bir |
eki |
yt͡ʃ |
tørt |
beʃ |
altɯ |
zeti |
segiz |
toguz |
on |
ウズベク語 |
bir |
ikki |
ut͡ʃ |
tørt |
beʃ |
olti |
yedi |
sakkiz |
to’qqiz |
on |
※表記は、IPA記号に統一しています。
いかがでしょうか?これは、あくまでも一例にすぎません。全てのチュルク諸語が、互いにそっくりだというわけでもありません。各言語にそれぞれの特徴があり、共通点もあれば、相違点もあります。そこで、私は自分の母語である中央アジアの「キルギス語」とシベリア少数民族の「アルタイ語」や「ショル語」の対照研究を行っています。ここからの話は長いので、今日はまずこの辺で終わります。
「チュルク諸語」についてもっと知りたいという方、大歓迎です☆
2.Sep.2024