佐治 奈通子
東京大学人文社会系研究科アジア文化研究専攻博士課程
はじめまして、こんにちは。私はトルコ共和国イスタンブルにて、オスマン朝時代の鉱山について研究をしております。これから少しずつトルコ共和国にある文書館・図書館について紹介していきたいと思いますのでどうぞ宜しくお願いします!
さて初回となる今回は、各文書館・図書館のご紹介の前にまず、トルコ共和国全体ではいったいどのような文書館・図書館があるのか、その全体像を概観してみたいと思います。
1. トルコ共和国の文書館・図書館
トルコ共和国内には全部で1600以上の文書館・図書館が存在しています(2013年時点。参考:http://www.tuik.gov.tr/PreTablo.do?alt_id=1086)。それらは大きく以下のように分類することができます。
A. 文書館(Arşiv)
1. 歴史文書館(Tarih Arşivi) ※政府文書館(Devlet (Merkez) Arşivi)とも呼ばれる
2. 近代文書館(Modern Arşivi)
a. 機関文書館(Kurum Arşivi)
b. 専門文書館(Özel Arşivler)
B. 図書館(Kütüphane)
1. 収集図書館(Derleme Kütüphanesi)
2. 写本図書館(Yazma Eser Kütüphanesi)
3. 公共図書館(Halk Kütüphanesi)
a. 移動図書館(Gezici Kütüphane)
b. 児童図書館(Çocuk Kütüphanesi)
4. 文学ミュージアム図書館(Edebiyat Müze Kütüphanesi)
5. 博物館付属図書館(Müze Kütüphanesi)
6. 専門図書館(Özel Konu Kütüphanesi)
7. 大学図書館(Üniversite Kütüphanesi)
8. 学校図書館(Okul Kütüphanesi)
これらの文書館・図書館は、政府の様々な部局の管理下に置かれていたり、独立した機関に付属したりしており、組織立った一元的な運営がなされているわけではありません。文書館は首相府(Başbakanlık)、図書館は文化・観光省(Kültül ve Turizm Bakanlığı)の管理下に置かれている場合が多いですが、それぞれの管理部局の編成は複雑で、すべての図書館・文書館がこれにあてはまるわけではありません。
2. 性質と利用頻度の高い施設
次に、各文書館・図書館それぞれの性質と特に利用頻度の高い施設を簡単に紹介します。(紹介予定)と付記されているものは、今後紹介していく予定の施設です。
A. 文書館
組織あるいは(諸)個人での特定の事務的使用を目的とする「文書」と呼ばれる種類の史料を収蔵しています。文書を主な資料として利用する方は、この文書館へ通うことになると思います。
1. 歴史文書館(Tarih Arşivi)
a. Başbakanlık Osmanlı Arşivi(紹介予定)
b. Başbakanlık Cumhuriyet Arşivi
c. Toplapı Sarayı Müzesi Arşivi(紹介予定)
d. Tapu ve Kadastro Genel Müdürlüğü Arşivi
e. Vakıf Arşivi
f. Meşihat arşivi
g. Deniz Arşive
h. Nühüs Arşive Ankara
i. Askeri Strateci Arşive(ATESE)
j. Milli Savunna Bakanlı Arşivi
k. Adalet Bakanlığı Evrak Mahzeni
l. Mülga Hariciye Nezareti Arşivi.(Ankara ve İstanbul)
2. 近代文書館(Modern Arşivi)
a. 機関文書館
b. 専門文書館
B. 図書館
1. 収集図書館(Derleme Kütüphanesi)
トルコ共和国内で出版された出版物を網羅的に収集している図書館です。日本では国立国会図書館がそれに当たるでしょうか。かつてはイスタンブルのバヤズィド国立図書館がその中心でしたが、1946年に首都アンカラに国立図書館(Milli Kütüphanesi)が建設されたのに伴い、その拠点も移動しました。しかしながら、かつてのイスタンブルの拠点を含むいくつかの図書館が今も同様の機能を持っており、実際には7つの図書館が現在収集図書館としての役割を果たしています。
a. Milli Kütüphanesi(紹介予定)
b. Bayezid Devlet Kütüphane(紹介予定)
c. İstanbul Üniversitesi Kütüphanesi(紹介予定)
d. Ankara Adnan Ötüken Kütüphanesi
e. İzmir Milli Kütüphane
f. Türkiye Büyük Millet Meclisi Kitiphane
2. 写本図書館(Yazma Eser Kütüphanesi)
手書きで書かれた、広い意味で読むことを目的として書かれた「写本」と呼ばれる種類の史料を収蔵している図書館です。写本を主な史料とする方は、この区分の図書館をよく利用することになると思います。管理局はイスタンブル局(İstanbul Bölge Müdürlüğü)、アンカラ局(Ankara Bölge Müdürlüğü)、コンヤ局(Konya Bölge Müdürlüğü)の3つに分かれており、トルコ共和国全体で22の写本図書館が存在しています。
◉イスタンブル局(http://www.yek.gov.tr/Link/ShowLink?LINK_CODE=12&LAN_CODE=TR)
a. Süleymaniye Kütüphanesi(紹介予定)
※Süleymaniye Kütüphanesiにはさらに4つの写本図書館が付属しています。
・Nurosmaniye Yazma Eser Kütüphanesi(紹介予定)
・Ragıp Paşa Yazma Eser Kütüphanesi
・Köprülü Yazma Eser Kütüphanesi(紹介予定)
・Atıf Efendi Yazma Eser Kütüphanesi
b. Beyazıt Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
c. Hacı Selim Ağa Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
d. Millet Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
e. Selimiye Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
f. İnebey Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
g. Balıkesir Mutasarrıf Ömer Ali Bey Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
◉アンカラ局(http://www.yek.gov.tr/Link/ShowLink?LINK_CODE=13&LAN_CODE=TR)
a. Kastamonu Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
b. Hasan Paşa Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
c. Ziya Bey Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
d. Vahit Paşa Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
e. Amasya Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
f. Erzurum Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
◉コンヤ局(http://www.yek.gov.tr/Link/ShowLink?LINK_CODE=14&LAN_CODE=TR)
a. Konya Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
b. Yusuf Ağa Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
c. Ziya Gökalp Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
d. Raşit Efendi Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
e. Manisa Yazma Eser Kütüphanesi Müdürlügü
3. 公共図書館 (Halk Kütüphanesi)
日本の県立・私立図書館にあたる図書館です。2013年時点で、全国に1118の公共図書館があるようです。気軽に利用できる地域の図書館から、貴重な資料を保存している図書館まで多岐にわたっています。公共図書館の中では、イスタンブルのアタテュルク図書館が非常に重要でしょう。
a. Atatürk Kitaplığı(紹介予定)
4. 文学ミュージアム図書館
(Edebiyat Müze Kitiphanesi: http://www.restoraturk.com/restorasyon-edebiyat/restorasyon-turk-edebiyati/1104-edebiyat-mueze-kuetuephaneleri-bilgi-letisim.html)
トルコの著名な文学者の邸宅跡などを図書館・ミュージアムとして改装したもので、その著者の著作や関連資料が収集されている図書館です。このような図書館開館の動きは比較的新しく、文学研究を志す方や伝記資料を集めたい方は、関心のある著者の図書館を訪れると必要な資料に効率よく出会えるでしょう。現在のところ、以下の著者の図書館があります。
a. Ahmet Hamdi Tanpınar Edebiyat Müze Kütüphanesi@İstanbul
b. Karacaoğlan Edebiyat Müze Kütüphanesi @Adana
c. Ahmed Arif Edebiyat Müze Kütüphanesi @Diyarbakır
d. Erzurumlu Emrah Edebiyat Müze Kütüphanesi@Erzurum
e. Evliya Çelebi Edebiyat Müze Kütüphanesi@Kütahya
f. Mehmet Akif Ersoy Edebiyat Müze Kütüphanesi @Ankara
5. 博物館付属図書館 (Müze Kütüphanesi)
トルコにある様々な博物館に併設されている図書館です。特に貴重な図書や文書が保管されてる場合が多く、非常に重要です。
a. Topkapı Sarayı Müzesi Kütüphanesi
b. Arkeoloji Müzeleri İhtisas Kütüphanesi
6. 学術研究機関付属図書館
トルコ共和国内にはいくつも専門的な学術研究機関がありますが、それらの施設に付属する図書館です。東洋研究所やドイツ考古学研究所など、それぞれの研究所の特色に応じた図書が収集されています。
a. Die Bibliothek des Orient-Instituts Istanbul
b. Alman Arkeoloji Enstitüsü İstanbul Şubesi Kütüphanesi
c. La Bibliotheque de l’Institut Français d’Etudes Anatoliennes
d. American Research Institute in Turkey
e. İslâm Araştırmaları Merkezi Kütüphanesi(İSAM)(紹介予定)
f. IRCICA Library / IRCICA Kütüphanesi(紹介予定)
7. 大学図書館
大学付属の図書館です。日本の大学図書館と同様に、トルコ共和国の大学図書館も非常に充実した蔵書持っており研究に役立ちます。中でもイスタンブル大学、ボアジチ大学図書館は蔵書数も非常に多く、また特色あるコレクションを保有しているため重要です。
a. İstanbul Üniversitesi Kütüphanesi(紹介予定)
b. Boğaziçi Üniversitesi Kütüphanesi(紹介予定)
c. İstanbul Teknik Üniversitesi Kütüphanesi(紹介予定)
d. Bilkent Üniversitesi Kütüphanesi
このようにトルコ共和国にはたくさんの文書館・図書館があり、それぞれ性質の違う資料を収集していますので、研究関心にあった施設にアクセスしたり、複数の施設を利用したりすることが必要です。ご関心ある分野の資料を探す際の参考にしていただければ幸いです。
今回はトルコ共和国の文書館・図書館組織を概観することに終始しましたが、今後は具体的に、イスタンブルにある文書館・図書館を中心にその利用方法などをお伝えしていきたいと思います。
参考文献、ウェブページ
小杉泰、林佳世子、東長靖(編)『イスラーム世界研究マニュアル』名古屋大学出版会、2008年.
林瞬介「トルコの図書館」『アジア情報室通報』9-1, pp. 2-7、2011年.
NIHUプログラム イスラーム地域研究 公益財団東洋文庫研究部 イスラーム地域研究資料室(TBIAS)「トルコ共和国イスタンブル・アンカラの文書館・資料館」
キャーウト・ハーネに移動した新しい首相府オスマン文書館