コンテンツへスキップ

東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【世界の図書館から】台湾大学(台湾)

台湾大学図書館事情

八木はるな
東京大学人文社会系研究科アジア文化研究専攻中国語中国文学専門分野博士課程

私は、台北に滞在した2013年9月からの一年間、ほとんどの時間を台湾大学図書館で過ごしていた。日本統治時代の1928年、台北帝国大学のなかに創立された図書館は、1998年に場所を移して新設され、現在の総合図書館はまだ建立20年に満たないほど新しい。旧図書館は、台大のシンボルとして知られるヤシの木通りの中央、文学院に隣接して位置していたが、現在そこは「台大校史館」と呼ばれ、大学博物館群の一部として開放されている。校史館もまた、実に風情の溢れる場所であり、台湾大学の見所の一つとなっている(写真①)。

私は幼少時代、一度に多くの本を手に取ることのできる図書館が大好きだった。大人になった現在では、人間が長い年月をかけて蓄積した知識の倉庫のなかで古い紙とインクの香りに癒されながら、研究や勉強に集中して取り組むことのできる大切な場所として、図書館を愛している。ここでは、長いあいだ大学図書館を利用してきた大学院生として、自身が考える台湾大学図書館の優れた点を、その設計や機能性を中心にレポートしたい。

まず、図書館は人々にとって歩きやすく、落ち着く場所でなければならないと思う。台大の総合図書館は、書籍と雑誌とに分類された2階と3階が全く同様に設計されており、利用者は空間を把握しやすい。また、書架の付近にはもちろんのこと、エレベーターや階段の前にも広々としたソファが多く置かれているために、利用者は常に足を休ませ、心を落ち着かせることができる。このゆったりと設けられた読書空間は、台大図書館の良さの一つであり、一階から五階まで隈無く置かれたソファの間を歩いてみると、しばしば快適そうに居眠りをする学生の姿を見かけるほどである。また、台大図書館のなかには、「台大人文庫」と名付けられた場所がある(写真②・③)。私は以前、とりわけ強い精神的疲労を感じたとき、ただ好きな本に囲まれて休憩するために、しばしばそこへ足を運んだ。三階の奥にひっそりと佇む「台大人文庫」は、台湾知識人の西洋風書斎を思わせる風情があり、台湾を代表する著名作家の書籍やそれらに関する研究書が、余すところなく並べられた特別な一部屋である。入口両側に配置された広めのソファ、高い天井と螺旋階段、窓から望める自然の風景のすべてが、癒しの空間を作り出し、一度足を踏み入れると、誰もがその美しさに感嘆するだろう。館内閲覧に限定された人文庫内の書籍には、貴重書も少なくなく、ただ書棚を眺めているだけでも、実に楽しい時間を過ごすことができる。近年の図書館建築においては、「自然との一体化」が重要なテーマとなることが多いというが、台北市の南東に位置する台湾大学のなかにあって、各階に設けられた大きな天窓から、台北101(台北市信義区にある複合商業型の超高層ビル)を含む大都会と、雄大な自然の山々とを同時に望むことのできる総合図書館は、優れた景観スポットとしても多くの人々を魅了しているのである。

抜群の立地にある台大図書館には、遠方から足を運ぶ者も多いようだ。同館の正面玄関を入ると、気持ちのよい吹き抜けの空間のなかに、「日然廳」と書かれた小さな展覧室があることに気づくだろう。その中で、たとえば2014年の夏に開かれた「思想、重慶南路」という展示では、台北の書店文化の中心・重慶南路の歴史を知ることができた。あるいは図書館5階では、文学にまつわる展覧が多く開催され、たとえば2014年の春には、台湾文学界に多大な貢献をもたらした齊邦媛名誉教授の手稿展があり、幾人かの著名な台湾人作家も講演に訪れていた。また、正面玄関の右手に設けられた新聞閲覧室は、常に一般の来訪客で賑わっている。

しかしまた、大学図書館であるからには、そこは研究者が利用しやすい場所でなければならないだろう。台大図書館は、新しい図書館ならではとも言える資料の集中収蔵が徹底されており、台湾現代文学を専門とする私にとっては、最も快適な研究場所でもあった。他方、1928年から同じ場所に建つ東京大学の総合図書館は歴史が深く、その懐旧的な佇まいは極めて美しいと言える。しかし、その専門書や雑誌の多くが各研究科に分散して所蔵されているという点では、台大図書館のもつ高い利便性に、遥かに及ばないだろう。台大図書館はまた、研究書の貸出に対して極めて大らかで、たとえば博士課程生ならば、2ヶ月間で計60冊の本を借りることができ、予約者がいなければ2回までの延長が可能、つまり一冊の書を最大半年間も使用できる。また、2階に設置された2台のスキャナーや、各階の定位置に設けられた複写室、非常に明るく快適な集密書庫などは、資料収集をより円滑に行うための優れた工夫であると言えよう(写真④)。さらに、広大に作られたマルチメディアルームでは、重要な歴史資料から当代の娯楽映画に至るまで、様々な映像作品をゆっくりと鑑賞できるほか、図書館地下1階には、24時間開放された自習室も設けられており、学生はそのなかで多くの試験を乗り越えていくのだ(写真⑤・⑥)。このようにして、台湾大学図書館は、利用者が学習・研究・文化活動のすべてを享受できるような、皆に愛される一種の集合場所となっているのである。

〈参考文献〉

図書館計画施設研究所・菅原峻編「図書館建築22選」1995年、東海大学出版会。

 

1

写真①:台湾大学校史館(出典:國立台灣大學校史館

2

写真②:台湾大學総合図書館3階「台大人文庫」(出典:臺大人文庫

3

写真③:同上

4

写真④:台湾大學総合図書館2階、集密書庫(筆者撮影)

5

写真⑤:台湾大學総合図書館4階、マルチメディアルーム(出典:臺灣大學圖書館多媒體服務中心

6

写真⑥:台湾大學総合図書館地下1階、自習室(筆者撮影)