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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【世界の図書館から】シンガポール国立図書館(シンガポール)

 

名桜大学国際学群上級准教授・元U-PARL特任研究員  坪井 祐司

シンガポール国立図書館は、ラッフルズ・ホテルにも近接する市の中心部に位置し、MRTのブギス、ブラス・バサ、シティ・ホール各駅から徒歩圏内で、アクセスは大変便利である。現在のヴィクトリア・ストリートの図書館は、2005年に開館した地上16階建ての目をひく建物である。母体の国立図書館局は、国立図書館、国立公文書館、26の公共図書館を管轄する。コレクションは、図書館組織全体で書籍755万点、電子資料は458万点に及ぶ。

図書館は、1823年にシンガポールの建設者ラッフルズによって設立された教育機関シンガポール・インスティテューションに起源をもつ。その後ラッフルズ図書館・博物館として整備され、戦後の植民地からの独立の過程で国立図書館となった。現在の国立図書館局のもとで組織化されたのは1995年のことである。長らくスタンフォード・ストリートに位置していたが、2005年に現在の位置に移転した。

開館時間は、毎日午前10時~午後9時である(祝日を除く)。利用にあたって、登録等の手続きは不要であるが、マイクロフィルムの閲覧の申し込みの際には身分証(パスポート)の提示が求められる。館内に飲食施設はないが、入り口近くにカフェが併設されているほか、近隣地域には飲食店がたくさんある。
図書館は、1階が受付となっている。エスカレーターで地下1階に降りると、そこは一般市民向けの公共図書館となっている。一般書のほかに、各国の新聞も閲覧できる。一方、エレベーターで昇ると、7~13階がリー・コンチアン参考図書館(Lee Kong Chian Reference Library)となっている。図書館に寄付を行った華人の実業家・慈善家のリー・コンチアン(李光前)の名前にちなんでいる。参考図書館には、専門書を中心に約60万点の研究資料が所蔵されている。その主な構成は以下の通りである。

7階:経済、科学技術コレクション:企業などの年次報告書や統計および理系図書。
8階:芸術、社会・人文科学コレクション:芸術および文系図書一般(東南アジア以外)。
9階:華語、マレー語、タミル語コレクション:英語以外の書籍全般。
10階:寄贈コレクション:図書館は、個人の寄贈も積極的に受け入れている。展示コーナーも併設されており、期間限定の企画展示が行われることもある。
11階:シンガポール、東南アジアコレクション(後述)
13階:貴重書コレクション(閉架)

各階の入り口でチェックがあり、大きな荷物は無料のロッカーに預けることになっているが、係員の許可を得ればPC等の持ち込みは可能である。各階のカウンターには図書館員がおり、資料について相談に乗ってくれる。各階に複写室もあり、資料のコピー(A4で1枚10¢)、マイクロフィルムのプリント(11階:A4で1枚45¢)も可能である。閲覧スペースは広く取られているが、午後は地元の学生を中心にかなり混雑することがある。

シンガポールに関心のある外国人にとって利用価値が高いのは、11階の東南アジアコレクションであろう。東南アジア各地域に関する英語文献が開架で一通り揃っているほか、視聴覚資料(DVDなど)も多数ある。古い資料はマイクロフィルム化されている場合も多い。マイクロフィルムも開架となっているが、閲覧にはカウンターで申請する必要である。マイクロフィルムのなかでは、とくにシンガポール及び近隣地域で発行された新聞・雑誌は貴重である。19世紀のものから、英語、華語、マレー語、タミル語、日本語など多岐にわたる言語の定期刊行物が含まれており、11階には新聞専用の検索端末も用意されている。
11階より上は貴重書の書庫で、立ち入り制限がある。貴重書の閲覧は可能だが、事前の申請が必要である(ホームページから申請できる)。古い資料の閲覧を希望する場合には、訪問前に閲覧資料を確定し、貴重書である場合には申請を済ませておいた方が良い。

シンガポール国立図書館の大きな特徴は、デジタル・コンテンツの充実である。書籍、雑誌、視聴覚、地図等の横断検索なOPACや幅広い電子書籍のコレクションにくわえて、さまざまなデータベースがHPを通じて図書館外からもアクセス可能である。特に充実しているのがシンガポールに関するデータベースである。そのいくつかを紹介しよう(参考サイト→http://eresources.nlb.gov.sg/Main/Pages/About)

・Books SG(http://eresources.nlb.gov.sg/printheritage/):シンガポールに関する書籍のデジタル・データベース。シンガポールの建設者ラッフルズ(T.S.Raffles)の著書、その通訳アブドゥッラーの記録『アブドゥッラー物語(Hikayat Abdullah)』(ジャウィと呼ばれるアラビア文字表記のマレー語で書かれている)、華語やタミル語の資料、古地図などの貴重資料にオンラインでアクセスすることができる。
・Newspapers SG(http://eresources.nlb.gov.sg/newspapers/):シンガポール・マラヤの新聞データベース。現地最大の英字紙ストレーツタイムズ(Straits Times)が1845年の創刊からすべてデジタル化されており、19世紀前半からの30タイトル以上の英語、華語、マレー語の新聞の記事全文の横断検索ができる。ダウンロードはできないものの、膨大な情報量を持つ貴重なデータベースである。
・History SG(http://eresources.nlb.gov.sg/history):シンガポールの歴史データベース。年表形式でシンガポールの歴史が関連資料とともに叙述され、関連する文献の書誌情報がリンクされている。
このほかにも、シンガポールの電子百科事典、出版、音楽、写真・絵図の各データベースなど、多くのコンテンツが用意されている。

データベースによるネットワーク化には他機関との連携も含まれている。国立図書館・文書館にシンガポール国立博物館を加えた横断検索システムOne-Searchでは、紙の資料にくわえて、視聴覚資料やシンガポールの地図等の検索が可能である。くわえて、他の東南アジア諸国の図書館との連携により、ASEAN Digital Libraryというサイトも開設し、各国の資料のデジタル・アーカイブ化を推進している。
・One-Search(http://search.nlb.gov.sg/Search
・ASEAN Digital Library(http://www.aseanlibrary.org/

くわえて、数多くの講演会やワークショップ、企画展示を主催するなど、さまざまな企画を積極的に手掛けており、その機能は図書館業務に留まっていない。「ビブリオアジア(Biblioasia)」(http://www.nlb.gov.sg/biblioasia/#sthash.ccrttx5p.dpbsという季刊の雑誌を出版しており、図書資料や活動の紹介を行っている。こうした点からも、シンガポール国立図書館は、東南アジア、さらにはアジアの図書館をリードする存在であるといえよう。

基礎情報 シンガポール国立図書館(National Library of Singapore)

・アクセス
住所 100 Victoria Street, Singapore 188064
ウェブサイト https://www.nlb.gov.sg/

(2018年10月11日掲載)