ドミニコ修道会オリエント研究所図書館
Library of the Dominican Institute for Oriental Studies
Bibliothèque de l’Institut dominicain d’études orientales
مكتبة معهد الدراسات الشرقية للآباء الدومنيكان
慶應義塾大学ほか非常勤講師
榮谷温子
修道院の黒いいかめしい門を入ると、警備のお兄さんがにこやかに出迎えてくれる。促されて緑豊かな庭園に入ると、野良猫たちが思い思いに散歩している。心優しい修道士たちが、自分たちの食事の残りを与えているらしい。入ってすぐ目の前の建物が、修道院兼オリエント研究所で、その裏に研究所の図書館が建っている。
ドミニコ会修道院およびIDEO外観
◎来歴
ドミニコ修道会は13世紀にフランスで結成され、エジプトのカイロに修道院を置いたのは1928年のことである。既に、ドミニコ会士がエルサレムに聖書学学院を開いており、カイロの修道院は当初、その延長線上で、聖書研究に関連した考古学研究をエジプトでおこなうという位置づけであった。
しかしながら、国際情勢がそれを許さず、1937年、カイロのドミニコ会士たちはイスラーム研究に身を捧げる決意をする。ドミニコ修道会オリエント研究所(略称IDEO)が設立されたのは、第二次世界大戦後の1953年であった。
翌1954年からは、学術誌 MIDÉO(Mélanges de l’Institut dominicain d’études orientales du Caire)を発行、IDEO内外の研究者の研究成果発表の場となっている。使用言語はフランス語、英語、アラビア語で、2019年には34号が発行された。その他、セミナーや学術会議も随時開催している。
彼らのアラブ・イスラーム研究は、キリスト教とイスラームとの宗教間対話もその目的としており、例えば、カイロのアズハル大学とは2016年11月に提携を結び、アズハル大学の男子部の言語・翻訳学部、女子部の人文科学部、そしてIDEO の3ヶ所でワークショップをおこなうなどしている。宗教を人文科学の視点から捉えなおす、宗教と現代人文科学の相互交流といった活動が主である。2018年3月から2022年2月までは、そうしたワークショップやその他、フランス語のクラスや、招聘研究者によるセッションなどが、Adawāt: Tools for Critical Thinking in Islamic Studies のプロジェクト(https://www.ideo-cairo.org/en/2018/04/adawat-tools-for-critical-thinking-in-islamic-studies/)の支援を得て開かれている。
IDEO図書館
IDEO図書館とMaison des chercheurs(右)
◎所蔵資料
上述のとおり、アラブ・イスラーム研究の分野の資料を収集している。特に、ヒジュラ暦1~10世紀の資料が中心である。2018年の春に、特別に書庫を見せていただいたが、良い意味で書架がスカスカであった。すなわち、これからも多くの資料を収集していく計画である。
アラブ・イスラーム研究の資料と書いたが、狭義のイスラームの宗教研究だけではなく、関連分野やキリスト教研究関連書、また地元エジプトの古代から現代に関する資料なども収集されている。あるいは、例えば、フランス系の修道院だけあって、仏文学の書籍なども入っている。(蔵書の分類一覧: https://alkindi.ideo-cairo.org/all/classifications )
蔵書数については、1タイトルが複数巻からなっていることが多いのと、書籍や雑誌に収められている個々の論文もカタログ化しているため、所蔵図書の冊数を言うのは難しいが、2019年夏の時点で、およそ20万タイトルのモノグラフと、およそ2,500タイトルの定期刊行物(うち約250タイトルは現在まで継続的に購入あるいは寄贈されている)が所蔵されている。
辞典等参考図書類の棚
◎利用方法
利用資格は、修士課程在籍以上の研究者であるが、例外的に、大学4年生(すなわち最終学年)の利用は可能である。登録申請用紙に、必要事項を記入し(エジプト人はIDカードの番号、外国人は旅券番号がわかればよい。パスポートの実物がなくても良い。) 年間登録料50エジプト・ポンドを払えば、閲覧者カードが発行される。
閲覧者カードには顔写真を貼るので、縦4センチ、横3センチの顔写真を持参する。とはいえ、大きければ切るし、小さければ小さいまま貼るので、サイズは気にするなとのことであった。
閲覧者番号は永久に有効である。一度登録し、例えば10年のブランクの後に再び図書館を訪れても、また登録料を払えば、また同じ閲覧者番号、閲覧者カードで図書館を利用することができる。
図書を閲覧するには、専用の用紙に、閲覧室における自分のテーブル番号等と、閲覧したい書籍の請求番号や題名等を記入し、係員に書庫から出してきてもらう。一人一日8タイトルまでという制限がある。人手不足と、1タイトルが何巻にも及ぶ場合があるためである。
図書の検索は、閲覧室に備え付けのPCで行うことができる。IDEO のオンライン・カタログ(https://alkindi.ideo-cairo.org/)を用いて検索する。上述のとおり、論文単位でカタログ化されているので、論集に収められた個々の論文もヒットしてくる。
なお、閲覧室では WiFi も使えるので、自前のPCをネット接続したい場合は、受付でパスワードなどを教えてもらおう。
閲覧室にエアコンはないが、扇風機が何台か置かれているので利用する。(離席するときは忘れずにスイッチを切ろう。) また、片隅に給水器も設置されており、冷水も温水も摂取できる。
後述する Maison des chercheurs に宿泊する場合は、閉館時刻を過ぎたあとでも、9タイトルまでであれば、自室に本を持って行って良い。宿泊期間中、合計9タイトルまでならずっと手元に置いておくことができるわけである。
資料のコピーを取りたい場合は、所定の用紙に記入して申し込む。著作権保護の観点から、1冊につき30枚まで(見開きで1枚なので、実質的には60ページまで)という制限がある。1枚30ピアストルで、申し込んだ翌週の火曜日かそれ以降に受け取り可能である。ただし、出版から50年以上経った書籍は、コピーによる破損や劣化(例えば、コピー機の光で紙が劣化する恐れがある)を避けるため、コピーできない。
しかし、これは研究所の公式ウェブサイトで公言するわけにはいかないことだが、とおっしゃりつつスタッフが教えてくださったのは、IDEO図書館では、フラッシュなしの写真撮影(カメラや携帯など)は、著作権うんぬん言わずに無制限に認めているとのこと。コピー機の光で書籍を傷めるより、フラッシュなしで写真撮影してもらった方が良いという感覚らしい。
図書館内の閲覧室
◎デジタル資料
フランス国立図書館の Gallica(ガリカ)のプロジェクトと共同で、IDEOやときにはIFAO(フランス・オリエント考古学研究所)の資料をデジタル化し、Gallica(ガリカ)で公開している。これらは、IDEO のカタログではなく、Gallica(ガリカ)から検索ができる。
また、IDEO発行の学術誌 MIDÉO は、2015年の31号からは、オンラインで全公開されている(https://journals.openedition.org/mideo/)。それ以前の論文等も、IDEO のオンライン・カタログからPDF形式でダウンロード可能である(https://alkindi.ideo-cairo.org/manifestation/contains/30802)。
◎サブジェクト・ライブラリアン
サブジェクト・ライブラリアンは存在しない。基本的には自力で図書を検索して閲覧する。ただし、閲覧に来たのが若い大学院生などであれば、カタログの使い方や本の分類方法などを助言することはできる。
現在、カタログ担当は、4人が書籍のカタログを、1名が定期刊行物のカタログを、1名が論文のカタログを担当している。いずれも大学卒で、図書館学科の出身者が3名であるが、それ以外の専攻、特に外国語を専攻した者を採用して、図書館での作業の訓練を受けてもらうことも多い。正直な話として、アラビア語しかわからない図書館学科の卒業生を採用するよりも、外国語の知識のある人材に図書館業務の訓練を施して、作業に当たってもらう方が良いとの考えだそうである。
◎カタログ・目録
オンライン・カタログ(https://alkindi.ideo-cairo.org/)は世界中からアクセス可能である。
上述のとおり、Gallica(ガリカ)とも共同しており、300冊ほどを Gallica(ガリカ)に載せる予定である。将来的には、そうした書籍は、IDEO の alkindi のオンライン・カタログの検索結果から Gallica(ガリカ)に飛べるようなシステムを作りたいと考えているそうである。
カタログ検索用PC
◎アクセス
最寄り駅はメトロの el-Geish 駅で、そこから徒歩10分ほどである。
タクシーを使う場合、例えばタハリール広場近辺からだと30~40ポンドほど。道路の事情にもよるが、通常は30分ほどで着く。Uber や Careem(Uber と類似の配車サービスで、最近、Uber と同じ会社に統合された)を利用すると、Google マップの加減から、出入り口のない裏手(モスアド・イブン・ユーセフ通り)に連れて行かれてしまうので注意が必要。手前のロータリーあたりで指示を出して、タクシーをタラビシ通りに誘導する必要がある。
なお、カイロ空港にお迎えサービスに行くなども可能であるので、研究所の秘書に連絡して、相談してみて欲しいとのことであった。
◎食事処
IDEO内には、閲覧者の利用できる食堂等はないが、ちょっと足を伸ばせば、ハラール中華のお店が何軒かある。店員さんが忙しくなさそうだったら、出身や出店に至った経緯などを聞いてみると興味深いだろう。なお、ハラールであるので、酒類は出ない。それら以外のお店でも、アルコールを供するところは見当たらないので、後述の Maison de chercheurs に宿泊する場合など、必要ならば持参すると良い。
◎近隣の資料収蔵機関
いちばん近いのはアズハル大学図書館であるが、資料の閲覧は、カタログもないため、難しいだろうとのことであった(アズハル大学中央図書館のウェブサイト http://www.azhar.edu.eg/centeral-lib/ar-eg/ を見ても、オンライン・カタログは無い模様)。アイン・シャムス大学も近いが、アズハル大学図書館にせよアイン・シャムス大学図書館にせよ、IDEO は関与しておらず、所蔵資料閲覧に関して便宜を図るなどすることはできないとのこと。
ただし、アズハル大学の中央図書館のウェブサイトによれば、留学生でも65ポンドで年間利用が可能のようではある。(http://www.azhar.edu.eg/centeral-lib/ar-eg/خدمات/إشتراكات)
◎その他
こちら https://www.ideo-cairo.org/en/newsletter-en/ からメールアドレスを登録すると、毎月(ただし8月を除く)、IDEO のニューズレターを受け取ることができる。
上述のごとく、図書館に直結して、Maison des chercheurs(英語名:the Scholars’ House)という、研究者用の宿泊施設がある。シングル・ルーム4部屋とダブル・ルーム1部屋がある。エアコン付き、バスルーム付き(バスタブはなし、シャワーのみ。お湯は出る)、館内WiFiも完備。基本的には素泊まりで、食事は各自が調達しなければならない(共同キッチンあり)が、朝食に限っては、冷蔵庫の食パン(トースターあり)やチーズなどなどを食して良い。共同キッチンには、簡単な調味料や各種のお茶はある。ただし、胡椒はあるのに食塩がない、などということはある。
宿泊費はユーロ払いで、個人で宿泊する場合は1泊€35であるが、学生ならば€25である。1ヶ月連泊は€700、学生だと€500。
◎参考資料等
澁谷由紀 2019:「フランス国立図書館の電子図書館”Gallica(ガリカ)”」U-PARL(編)『世界の図書館から:アジア研究のための図書館・公文書館ガイド』勉誠出版,191-198.
(2019年9月3日)
●インフォメーション欄
図書館ウェブサイト
https://www.ideo-cairo.org/en/library-en/(英語)
https://www.ideo-cairo.org/ar/library-ar/(アラビア語)
https://www.ideo-cairo.org/fr/library-fr/(フランス語)
オンライン・カタログ
https://alkindi.ideo-cairo.org/(英語・アラビア語・フランス語)
住所
1, al-Tarabishy street, al-Abbasiyyah, 11381 Cairo, Egypt(ドミニコ修道会敷地内)
電話
+20 2 24 83 43 69(秘書のEmanさんに直通)
アクセス
最寄り駅は地下鉄の el-Geish 駅。徒歩10分ほど。
開館日時
火曜~木曜9:00~17:00
金曜9:00~19:00
土曜~月曜休
その他、夏季休暇やカイロ・ブックフェアの時期などに臨時休館するので確認が必要である。
開館日のカレンダー:
https://www.ideo-cairo.org/en/calendar/290/
入館・閲覧に必要なもの
上述のとおり、エジプト人ならIDの番号、外国人であれば旅券番号。年間登録料50エジプト・ポンド。閲覧者カード用の顔写真。
※本稿執筆に関しては、図書館副館長Magdi Azab Aziz氏およびIDEO所長 Jean N. Druel 氏に大変お世話になった。この場をお借りして御礼申し上げる。