水上 遼
東京大学大学院人文社会系研究科アジア史専門分野博士課程
(テヘラン大学人文科学部歴史学科研究生)
イスラーム遺産復興センター(Markaz-e Eḥyāʼ-e Mīrāhth-e Eslāmī。以下「復興センター」とする)はイランの首都テヘランの南、ゴム市にある図書館である。筆者が以前紹介したマルアシー図書館やテヘラン大学中央図書館と並んで、復興センターもまた数多くの貴重な写本を所蔵している図書館として知られるが、資料の収集方針においては他の図書館とは大きく異なる特徴を持つ。
復興センター入口
復興センターはヒジュラ太陽暦1374年(西暦1995/96年)に設立された、比較的新しい図書館である。創設者のセイエド・アフマド・ホセイニー・エシュケヴァリー氏は、研究者たちが校訂・出版されていない史資料をより手軽に利用できるような環境をつくろうと考え、長年にわたり様々な写本を収集するとともに、イラン国内外の写本をマイクロフィルムにて収集してきた。氏はマイクロフィルムを収集するにあたり、イラン国内にある大規模図書館ではなく、国外の諸図書館や、国内の地方あるいは個人図書館といった、研究者たちが利用しにくい機関が所蔵する写本を集めることに主眼を置いてきた。こうした彼の尽力により、研究者たちは国内外の利用しづらい図書館に行かずとも、復興センターにおいて各種の写本を非常に容易に閲覧・複写することができるようになった。こうして氏が収集してきた膨大な数のマイクロフィルムこそ、この図書館の持つ最大の特長である。
筆者がセイエド・アフマド氏や彼の孫のセイエド・ムハンマド氏(同図書館のカタログ編集者セイエド・ジャアファル氏の息子)から聞いたところによれば、復興センターは現在、1万2千点の写本、10万点のマイクロ、3千点の石版本、そして3万点の校訂された歴史資料を所蔵している。そして、これらの収集活動は今日も続いており、所蔵数は日々増えていっている。所蔵されている写本、マイクロ、石版本は、原本とは別にもう一部複写された形で保管され、かつデジタル化もなされている。
本図書館は、利用のための特別な手続きを必要とせず、また資料のCDへのコピー作業も非常に短時間で完了し、そのうえコピー料金も安価である。こうした利用しやすさもまた復興センターの特長である。
利用に際しては、まず入口で写本を閲覧したい旨を伝えると地上階にある閲覧室に案内される。閲覧室では通常、上述のセイエド・ムハンマド氏が閲覧・複写を取り仕切っている。セイエド・ムハンマド氏に自分の所属を伝え、閲覧・複写の希望を出すと、すぐに写本の現物や、複写したCDを持ってきてくれる。コピー代は一画像800リヤルと、他の図書館に比べて安く、10分程度でCDを用意してくれる。
閲覧室
地上階には閲覧室の他に、小さな博物館がある。2015年12月の時点ではまだ空のケースが多く、今後充実させていく予定とのことであった。1階には参考図書の閲覧室がある(冒頭写真)。閉まっていることが多いので、利用したい場合はセイエド・ムハンマド氏に伝える。
復興センターは上述のとおり比較的新しい図書館であり、写本、マイクロともにカタログ化の作業はまだ始まったばかりである。所蔵している写本、マイクロでカタログに記載されているものは十分の一に満たない。カタログに記載がないものであっても、所蔵されている場合がありうる。
カタログ(未完。表記はnacsis翻字規則に基づく)
・写本
Fihrist-i nuskhahʹhā-yi khaṭṭī-i Markaz-i Iḥyāʾ-i Mīrās̲-i Islāmī (1-11巻。所蔵番号1から5000まで記載)
・マイクロ
Fihrist-i nuskhahʹhā-yi ʻaksī-i Markaz-i Iḥyāʾ-i Mīrās̲-i Islāmī (1-6巻。所蔵番号1から3200まで記載)
アクセス:Qom, Bolvār-e Kāregar, janb-e Mojtamaʻ-e Āyatollāh al-ʻOẓmā Sīstānī, Markaz-e Eḥyāʼ-e Mīrāhth-e Eslāmī
公共交通機関はない。バスターミナルがあるハフタード・ド・タン広場から、あるいはハラムからタクシーを利用する。バスターミナルからタクシーに乗る場合、「エマーム・ホメイニー広場からカーレギャル通りに入り、線路の手前」と運転手に伝えるとわかりやすい。
図書館ウェブサイト |
www.mirath.net |
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入館・閲覧に必要なもの |
特になし。念のためパスポートなどの身分証を持参すると良い。 |
開館日時 |
土~木 16:00-20:00 |
その他 |
開館時間に注意。夕方4時から8時まで。 |