中国の長篇小説である『水滸伝』は、明代に出版物の形で現れて以来、現在に至るまで広く読み継がれてきた。その過程で折々の必要に応じてさまざまな版が作成され、流通した。つまり、ひとくちに『水滸伝』と言っても、長さも描写も内容も違いのあるいろいろなものが存在する。
東京大学も少なからぬ『水滸伝』版本を所蔵しており、なかには世界にただ一点という稀覯本も含まれる。こうした財産を広く世の研究者、愛好者にも読めるようにしたい、研究資源として存分に活用してもらいたいとの思いが本コレクション設立の重要な動機のひとつである。どこにいようとも資料をいためることなく隅々まで閲覧できる高精細デジタル画像はこのうえなく時宜を得たツールであった。
『水滸伝』は江戸時代に将来されて以来、日本でも人気を博し、さまざまな『水滸伝』が各地で読まれ、研究された。東京大学が所蔵する『水滸伝』にも森鷗外旧蔵書、幸田露伴旧蔵書、紀州徳川家旧蔵書などがある。
東京大学所蔵『水滸伝』のなかにはまた、旧所蔵者が熱心に読みこんだことがうかがえる書入れを存するものがある。そのなかには専門家が研究の視点から施したものもあれば、愛好家が好みに応じて記したようなものもある。これらの資料を通じて、『水滸伝』が遠つ国の古い物語であるというだけでなく、ひろく日本人の読書にしっかりと根を下ろしてきた存在であることを感じとっていただけるであろう。
U-PARL特任研究員 荒木達雄
*この記事は2024年2月29日刊行の『東京大学アジア研究図書館デジタルコレクション2017–2023』(U-PARL編、2024年)p.24からの再録です。
March 22, 2024