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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

『チュヴァシ語研究のため資料』――中央ユーラシア学術資源コレクション文献紹介(2)

Ашмаринъ, Н. И. (1898) Матеріалы для изслѣдованія чувашскаго языка.

 Казань: Типо-литографія Императорскаго Университета.

『チュヴァシ語研究のため資料』

菱山 湧人(新潟大学)

 

0. はじめに

 本稿では、東京大学付属図書館アジア研究図書館U-PARL「中央ユーラシア学術資源コレクション」所蔵のチュヴァシ語文献 Ашмаринъ, Н. И. (1898) Матеріалы для изслѣдованія чувашскаго языка. Казань: Типо-литографія Императорскаго Университета. の構成と内容、著者、歴史的価値について述べる。

 

1.    概要

 本書は帝政ロシア期に、チュヴァシ語学の創始者 Николай Иванович Ашмарин(ニコライ・イヴァノヴィッチ・アシュマリン)(1870-1933) によってロシア語で書かれたチュヴァシ語の文法書である。20代の頃の著作であり、彼の主な業績に挙げられるもののうち、最も古いものの一つである。出版地は当時のカザン県カザン市である。

図1:本書の表紙
2.    構成と内容

 400頁を超える大部である本書は、全2部からなっている。第1部は音韻についてであり、交替、同化、脱落、メタセシス、他チュルク諸語との音対応について述べられている。第2部は形態論(品詞)についてであり、名詞、形容詞、数詞、代名詞、後置詞、副詞、接続詞、感嘆詞、動詞の順で取り上げられている。最後には付録として、補足および上流方言の諸特徴が挙げられている。

 挙げられているチュヴァシ語の単語や例文は、キリル文字に基づくチュヴァシ語アルファベットの創始者ヤコヴレフが1870年代に考案したアルファベットを用いて書かれている。当時アラビア文字で書かれていたタタール語やオスマン語など他のチュルク諸語の例の表記では、ロシア語で書かれた本書が想定する読者が読めるように、キリル文字やラテン文字も用いられている。

図2:アラビア文字とラテン文字が含まれた記述 (p.122)
3.   著者:Николай Иванович Ашмарин(ニコライ・イヴァノヴィッチ・アシュマリン)

 本書の著者は、チュヴァシ語学の創始者として知られている言語学者でチュルク学者のНиколай Иванович Ашмарин(ニコライ・イヴァノヴィッチ・アシュマリン、以下アシュマリン)(1870-1933) である。以下は、ロシア大百科事典(電子版)のアシュマリンの項目 (https://bigenc.ru/c/ashmarin-nikolai-ivanovich-523e48) の要約である。

図3:Николай Иванович Ашмарин(ニコライ・イヴァノヴィッチ・アシュマリン) (https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=35114257)

 

 アシュマリンは1894年にラザレフ東洋言語研究所を卒業後、1919年までカザンの学校や研究所でタタール語、チュヴァシ語、地理を教えた。1920年から1923年までシンビルスク(現在のウリヤノフスク)の研究所でチュヴァシ語を教えた。1923年から1926年までアゼルバイジャン国立大学(現在のバクー国立大学)東洋学部チュルク学科長を務めた。1926年にカザンに戻り、1931年まで研究所でチュヴァシ語やチュルク諸語対照言語学を教えた。

 アシュマリンは生涯を沿ヴォルガ地域の諸民族、主にチュヴァシ人とチュヴァシ語の研究に捧げた。彼はチュヴァシ語の音声学、形態論、統語論、辞書編集、表現法、方言学などに関する基礎的な著作を残した。代表的な著作は、30年以上にわたって収集した資料を基に編纂した『チュヴァシ語辞典』(1928-1958) である。彼はチュヴァシ民族の形成に関する研究や、チュヴァシの民俗文学(歌やことわざ)の収集と出版も行った。

4.    歴史的価値:チュヴァシ語学の歴史における本書の位置づけ

 本書はチュヴァシ語学の創始者であるアシュマリンの最初期の著書であり、100年以上前のチュヴァシ語の音韻論および形態論に関して詳細な記述がなされているという点で貴重な資料であるといえる。

 

■ 謝辞

本研究はJSPS科研費(研究課題23KJ1014)の助成を受けている。

■ WEBサイト

Ашмарин Николай Иванович (https://bigenc.ru/c/ashmarin-nikolai-ivanovich-523e48) [最終閲覧日:2025/03/29]

Библиотека СССР имени В. И. Ленина (https://mos80.ru/b/bering_borodinskiy/gbl.html) [最終閲覧日:2025/04/02]

File:Ashmarin.jpg (https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=35114257) [最終閲覧日:2025/04/01]

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