コンテンツへスキップ

東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

はじめての自主検査~台湾防疫見聞

はじめての自主検査~台湾防疫見聞

荒木達雄

2022年11月23日から28日まで、台湾へ行ってまいりました。主要な目的は、中央研究院・中国文哲研究所で開催されたワークショップ「書頁邊緣:從聲音、形象到文本世界」に出席すること。この時の研究発表、討論、コメントなどの報告は別の機会にゆずり、今回は台湾の街角で見かけたあれこれを雑多につづることにいたします。
*拙文は、筆者が見聞したものを筆者の知る範囲で記すのみで、特に調べ直したり裏をとったりということはしておりません。これから台湾へ行かれるという方は、ご自身で念入りにお調べくださるようお願いいたします。
**筆者は2006年以来ほぼ毎年台湾を訪問し、2013年8月から2019年6月まで台北・台南・新竹に居住してはたらいておりました。前回の訪台は2019年12月から2020年1月にかけて(台北、新竹、台東)。文中、「いつも通り」「以前と同じ」などと言っているのは、これらの個人経験にもとづく感想です。異なる時期、異なる都市に行かれたかた、住まわれていたかたとは異なるところもあると思われます。

 

 

 

 

 

思い返せば2020年1月、年末年始の休みを台湾で過ごしたあと帰国した成田空港で、「中国大陸で原因不明の肺炎が発生!」という掲示を目撃。これがまさかその後およそ3年にもおよぶ日本国内引きこもりのはじまりになるとは夢想だにしなかった…。

時は流れて2022年、徐々に海外からの入国者も増え、日本人旅行客の行き先も次第に開放されてきたという報道が目につくようになった。それでも筆者はまだ躊躇していた。ひとたび禁止されたことが、またできるようになりましたよと言われても、本当にだいじょうぶなのか?思わぬ障害があったりミスを犯してしまったりしないか?…などの不安が先に立ち、なかなか重い腰があがらない。

救いの手が差し伸べられたのが今年5月。「11月に台北で開催するワークショップに講演者の一人として参加しませんか?」とのことだった。当時は、「11月に入境制限があればオンラインで、解除されていたら現地で」という注釈付きであった。報道でも知られている通り、台湾は感染症対策にかなり力を入れていて、海外からの入境者受け入れにも慎重な姿勢をとり続けていた。仮に無事入境できるようになったとしても、検査だの隔離だのとなってしまえば通常業務に支障が出るため断念せざるを得ない。

9月下旬、潮目が変わった。台湾当局が一般入境者の制限を大幅に緩和したのである。

*訪台を検討しているかたは、こちらにてご確認ください。>>>衛生福利部疾病管理署(https://www.cdc.gov.tw/Category/MPage/n1zhXm4d4jIx2Y_k4ImsbA

無症状であれば入境は可能。ただし入境7日以内はいつでも自主隔離が可能な個室を確保し、外出するには空港で配布される自主検査キットで陰性を確認してからとのこと。主催者からは、今回招待した講演者はみな入境できるようになったので現地でやります、との連絡があった。

ただ、まだ不安はぬぐえない。検査って、いつどこでやって、誰に報告するの?万一症状が出てワークショップに出られなくなったら?帰国直前に感染が判明したら…?しかし結局は、「ご心配なく、なんとかなります」という先方のおことば、それに「久々に台湾へ行ける!」という思いが勝り、訪台を決意したのであった。

仕事が終わり、その足で駆けつけた夜の空港。平日夜の便にも関わらず機内の席はほぼ埋まっていた。大多数は台湾からの観光客(夢の国や、免税店の袋を両手に余るほどさげている人が多かったので観光客かなと)。やや遅延があって日付が変わっての到着となった桃園空港。ここが緊張のはじまり。さて、いったいどのようなチェックがなされるのだろう。時間かかるのかな。万一なにかあったら予約したホテルはどうなるのかな…などなど不安が止まらない。

お店も閉まり寂しくなった空港の通路を行く。途中、体温チェックの係官はいたと思うのだが、特に止められることもなくあっさり通過。そして、自主検査キットと説明書をもらう。

 

お、ついに来たか、と緊張が走るも、そのまま入境審査へ送られる。海外パスポート保有者の列に並んだ乗客はごくわずか(私が一人めだった)、ここもすんなり通過。

結局、以前の入境審査となんら変わることもなく、あとは自力で予約した宿へ向かう。チェックインもなにも変わったところなし。手指消毒のアルコールがあったかな、という程度。

さて、夜中の到着で小腹も空いた。この時間だし、周囲は不案内だから、屋台とは言わぬが、せめてコンビニで台湾らしいおつまみでも買いたいぞ……おっと、そうだ外出前の自主検査をせねば…。

さきほどもらった簡易検査キットを開封。図解付きの大きな説明書がついている。

空港でもらった紙(上の写真にうつっている黄色い紙)によると、日本語による使い方説明のページも設けられているとのこと。QRコードから飛べる使い方説明動画は英語だった。

鼻腔から検体を採取して検査液につけ、それをさらに検査キットに垂らして15分待つ……この15分はさすがにドキドキした。ここで陽性ならば初日にしてすべての計画が水泡に帰す。緊張とともに徐々に変色していく検査キットを見つめる。

陰性でした!ありがとうございます。

こうして台湾のコンビニおつまみにありつくことができたのでした。

規則では、入境後7日間、外出するには直前2日以内の自主検査陰性が必要とのことであったので、上のように結果を写真にとって持ち歩いていたのだけど、そういえばどこでも誰にも提示を求められなかった。提示する必要がないのか、必要はあるけれど省略していたのか、その辺りはきちんと調べていないのでわからない。ひとたび外に出てしまうといつも通りのような感覚がして気が緩んでしまいそうで怖い。

翌朝、散歩をするとあちこちに幟や看板。この週末は選挙なのであった。

  (まるで政治家になるために生まれてきたような名まえですね…)

 

 

 

 

 

 

台湾の選挙では、日本のようにポスターの掲出場所やサイズがきまっているわけではないようで、さまざまなサイズの、さまざまな形状のポスターが街の至るところに現れ、一気に景観がやかましく…、いや、華やかになる。

 

 

 

 

 

 

ビルの壁面には巨大な看板、路線バスにもラッピングが。日本であれば、資金力によって知名度に差が出るとして禁止されそうなものだが、こちらではそうではないらしい。ちなみに、(おそらく高額なものでなければ)モノを配るのも問題ないようで、筆者も以前の在住時、うちわやらティッシュやらよくもらった。(すみません、有権者じゃないんですが…)と思わないでもなかったが、むこうからどんどん手渡してくるのだから仕方ない。

(街角で撮影した選挙ポスター、看板を一部ご紹介)
 

 

 

 

 

 

(ほかの広告のようになんとなく風景に溶け込んでいるようなものも)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(目立つスペースには多くの候補者の看板がひしめきあう

上述の筆者の経験をご覧になって、コロナなど気にせずずいぶん自由にできるのだなあと思われたとしたら、それは筆者の書きようが悪いのであり、どうかご容赦いただきたい。

台湾でも感染症への警戒が弱まったということはなく、ワクチン接種、マスク着用、手洗い、アルコールによるこまめな消毒、簡易検査などを励行するTVCMを頻繁に流している。

 (小児のワクチン接種に関するCM)

 

 

 

 

また、公共の場、特に屋内空間ではマスク着用が求められている。

  (台北・松山にある市場。マスク着用での入場を求めている)

 

 

 

 

 

 (パンダ館に入るのにもマスクは必須)

 

 

 

 

 

 

 

友人に聞いたところ、マスク着用は「お願い」や「推奨」ではなく、「規則」なのだそうだ。

 

 

 

 

 

 

(雑居ビルの入り口。「伝染病防治法」にもとづき、マスク非着用者には3000元以上15000元以下の罰金が科されると警告)

期間中、一度夜市に立ち寄った。夜でも明るく輝き、人でごったがえし、まるで以前通りの様子を取り戻したかのように見えたが…。

 

 

 

 

 

 

なかに入ってみると、みんなきちんとマスクをしている。

ここは筆者もかつて何度も来ていたところなのだが、狭い道に多くの人が詰めかけるという状況を長い間経験していなかったせいか、十何分かいると次第に動悸がしてきて、早くここから出たいという気持ちになってしまった。

 

台湾の都市では、朝、公園で太極拳やダンスをしているグループがあちこちで見られる。散歩をしながら、朝食をとりながらこれを眺めるのが楽しみであったりもするのだが、今回私が見かけたグループは、離れて立っている先生らしき人以外はみんなマスクをしていた。今年の台湾の秋は暑く、11月下旬にも関わらず30度に迫ろうかという日もあった。そんななかマスクをして運動するのはつらいだろうと思う。

とどのつまり、感染症対策は個人の意識づけによらざるを得ないところが大きく、台湾ではそれが法律での規制も相まって、「公共の場ではマスク」が厳格に実行されているということのようだ。街中でもマスクを外したりずらしたりしている人は見かけたし、夜にマスクなしで大声で叫んでいる人も見かけた。しかし、これらはよくある(ないほうがいいけど)違反であり、決して許されているわけではないのだろう。そういえば、台北の夜、バーと思しき建物の外に若者が大勢いて、警察官が数人駆けつけているところを目にした。なにか事件があったのかと思ったが、もしかするとマスク非着用云々の件なのかもしれない。選挙期間中、指定の場所でマスクを着用しなかった疑いで、ある候補者の行動を警察が捜査しているというニュースもあった。インタビューや演説でマスクを外している姿はよく目にしていたので、おそらくマスク着用が必要な場合とそうでない場合とのなにかしらの基準があるのではないかと思う。

今度のワークショップは、実に久々の対面式での国際会議ということで参加者がみな興奮していた。筆者がほぼ外国語の国際会議に対面で出席するのはおそらく5年ぶりぐらいのことで、がちがちに緊張してしまい、嫌な汗もたくさんかいたが、終わった後は3分の後悔に勝る7分の充実感が残った。やはりオンラインではできないことがある、とあらためて実感することも多かった。

この感染症はなかなか落ち着きそうにない。安く簡単に処方できる飲み薬や、効果が高くかつ負担の少ないワクチンや治療法でもできない限りはこうしておそるおそるやっていくしかないのかもしれない。台湾の人々が慎重に慎重を重ね、ここまで状況を改善��せてくれたことで今回の訪台は実現した。そのことにまずは感謝を申し上げ、また近いうちに行けるよう、必要最低限のルールはきちんと守っていこうとあらためて心に誓った次第である。

December 20, 2022

(おまけ)

帰国日の朝、朝食のために街を歩いていたところ、今回の選挙での大きな話題のひとつであった蒋介石元総統の曽孫・蒋万安候補が、台北市長当選のお礼行脚をしているところに遭遇した。

 

 

 

 

 

 

警察官が信号の脇の操作盤をいじっていて、なにをしているんだろうと思っていたが、蒋氏の車列が止まらないように信号を調整していたのだろう。