コンテンツへスキップ

東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
Uehiro Project for the Asian Research Library

COLUMN

【アジア研究この一冊!】宮嶋博史著『両班―李朝社会の特権階層―』

 

U-PARL 特任研究員

木村 拓

本書は、朝鮮時代(1392~1910)の農業史・土地制度史、および植民地時代における日本による「土地調査事業」を中心に長年にわたって優れた業績を積み重ねられてきた宮嶋博史氏が、朝鮮時代の両班(ヤンバン)、とりわけ地方在住の「在地両班」の生成過程に焦点をあてながら、当代の朝鮮社会の個性的変動を跡付けることを目的として、書き下ろした本である。

朝鮮時代の歴史に少しでも関心がある方であれば、「ヤンバン」という響きに聞き覚えがある方も多いと思う。朝鮮時代の両班といえば、一般的には、官職の有無を問わず、広く支配エリート層の人々のことを指す。ただし正確には、ある人が両班という階層に属するか否かは、何らかの客観的な基準があったわけではなく、その基準は相対的・主観的なものであった。この点が両班の範囲や意味に流動性を与え、それを捕捉しがたくしているのであるが、それと同時に両班の範囲や意味が朝鮮時代の社会変動と密接に関わりながら変化していく要因ともなった。このことは、本書が両班に焦点をあてながら朝鮮社会の個性的変動を描いている所以でもある。

私はこの本をすでに4~5回は読んだと思うが、いつも新鮮な驚きをもって読むことができ、また読むごとに新たな知的好奇心を呼び覚ましてくれる。これは(私の記憶力が良くないということが一因かもしれないが)、本書の内容が広くて深いこと、また豊富であることに起因するであろう。本書は明清時代の中国の士大夫層や近世日本の武士層との比較の視点も随所に取り入れており――宮嶋氏によれば、農村居住者としての在地両班層はイングランドのジェントリ層との格好の比較対象にもなるかもしれないという――、韓国朝鮮研究を志す方にはもちろんのこと、中国研究・日本研究、そして東アジア研究を志す方々にも一度は手に取って読んでいただきたい一冊である。

なお、本書は韓国語にも翻訳されている(미야지마 히로시著・노영구訳『양반:역사적 실체를 찾아서』도서출판 강、ソウル、1996年)。

【書誌情報】
宮嶋博史著
ISBN:4121012585
出版地:東京
出版社:中央公論社
出版年:1995年
判型・ページ数:新書判・222ページ
定価:699円+税