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東京大学附属図書館アジア研究図書館
上廣倫理財団寄付研究部門
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EVENT

【報告】「つながる・史料と研究」東洋学・中国学若手研究者のための合宿ワークショップ

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2016年3月19日~21日の3日間、U-PARLの主催、東京大学東洋文化研究所、同附属東洋学研究情報センター、京都大学人文科学研究所、同附属東アジア人文情報学研究センターの共催により、東洋学・中国学若手研究者を対象とし、「つながる・史料と研究」と題した合宿ワークショップが、東京大学運動会山中寮内藤セミナーハウスにて開催されました。4名の講師と24名の若手研究者の参加を得て、4つの主題セミナーと8名の研究発表によって、史料と真摯に向き合いながら自分の研究を高めてゆくという、研究者にとって原点であり、永遠の課題であり、そしてまた醍醐味でもある営みを、研究者どうし交流・親睦を深めつつ体験し共有する場とすることができ、主催者として安堵するとともに感謝しています。

以下、ワークショップの様子を写真で紹介するとともに、3名の参加者によるレポートを掲載いたします。

IMGP1464第1日午後の部・土口史記講師(京都大学人文科学研究所助教)によるセミナー「秦漢時代の簡牘文書」
さまざまな形態の簡牘文書について解説されています。

IMGP1480 IMGP1492 IMGP1518 IMGP1520第1日・夜の部はレセプション。初対面ばかりでしたがすぐに打ち解けました。

IMGP1552第2日午前の部・成田健太郎講師(U-PARL特任研究員)によるセミナー「南北朝・唐の石刻史料と異体字」
参加者が頭を突き合わせて石に刻まれた未知の文字に挑みます。

IMGP1575第2日午後の部・研究発表。8名の参加者による発表に対してたくさんの質問が投げかけられました。
質問票に書かれた質問を整理して紹介する永田講師(右端)。

IMGP1599第2日夜の部・永田知之講師(京都大学人文科学研究所准教授)によるセミナー「明清時代の漢籍と書誌情報の採取」
漢籍の書影から出版に関する情報を探し出します。夜遅くまで史料とにらめっこ。

IMGP1604第3日午前の部・吉澤誠一郎講師(東京大学人文社会系研究科)によるセミナー「清朝の檔案史料にみる虚実」
檔案史料を外国人による記録と対照して読み解くと、歴史の舞台裏が見えてきます。


安藤喜紀

大東文化大学大学院文学研究科
書道学専攻
博士前期課程二年

2016年3月19日から21日にわたり、U-PARL主催による「つながる・史料と研究」東洋学・中国学若手研究者のためのワークショップに参加させていただきました。

セミナーは4つの講義と参加者による研究発表と二泊三日という限られた時間の中で、非常に充実した内容でした。

土口先生による「秦漢時代の簡牘文書」では、簡牘の書かれた順番について考える場面において、書道学に携わる私などは、文書の内容だけでなく筆跡の違いも根拠に推測し、逆に成田先生による「南北朝・唐の石刻史料と異体字」の中で、異体字の解読を行う場面においては、文献を扱う方々が、内容からも推測して解読を行う、といったことがあり、同じ史料一つとっても、研究の分野が違うことで、違う視点から「モノ」をとらえていることが如実に表れました。そういう多角的な視点で「モノ」をとらえることができたことは、今回のセミナーの中で強く印象に残っていることでもあり、また強く刺激を受けたことでもあります。永田先生による「明清時代の漢籍と書誌情報の採取」では、明清時代の漢籍の書誌情報の決定に付きまとう問題と共に、中国学を研究する上での漢籍への態度を学びました。吉澤先生による「清朝の檔案史料にみる虚実」では同じ事柄についての、同じ内容が記された「モノ」を比較することで、その事柄について様々なことが立体的に見えてきたことに感動さえ覚えました。

また、夜には、セミナーが終わってからの時間も多くの方が消灯時間間際まで交流を深めており、浅学ながら、その輪の中に入り交流を深めることができたことも非常に印象に残っており、分野を超えて同じ中国について語り合う中で、非常に刺激を受けました。

今回の三日間に及ぶセミナーの中で、質・量ともにとても多くのことを学ばせていただきました。今回得られたものを今後の研究の中で最大限活かしていきたいと思います。

最後になりますが、今回このような機会を与えてくださった講師の先生方をはじめ、関係者の皆様に深い謝意を申し上げます。


鈴木涼子

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科
比較社会文化学専攻アジア言語文化学
博士前期課程二年

今年3月19日から21日の三日間、「つながる・史料と研究」東洋学・中国学若手研究者のための合宿ワークショップに参加させて頂きました。北海道から関西まで、講師の先生方を含め28人が集ったこのセミナーでは、専攻分野外の史料を紹介して頂くとともに、様々な利用方法と研究成果について学ぶ機会となりました。拙文ではありますが、本セミナーについて印象に残ったことをご報告させて頂きます。

一日目山中寮到着後は、土口史記京都大学人文科学研究所助教の「秦漢時代の簡牘文書」の講義が行われました。簡牘についての詳しい説明のほか、実際に簡牘文書を読解するなど、とても楽しく勉強させて頂きました。その後、夜のレセプションでは、各地のお土産を頂きつつ参加者の皆様とお話をすることができ、多種多様な研究内容と見識の深さに驚きました。

二日目の午前中はU-PARL特任研究員である成田健太郎先生の「南北朝・唐の石刻史料と異体字」の講義が行われ、実際に拓本に触れる貴重な体験をさせて頂きました。読解作業は自分の知識のなさを痛感しましたが、碑別字の類別や碑別字が多発した要因、データベースに関して勉強させて頂きました。

午後には本セミナーに参加した研究者の方々の発表があり、殷周金文から清代の外交についてまで、幅広い研究内容の一端を垣間見ることができました。夜には永田知之京都大学人文科学研究所准教授から「明清時代の漢籍と書誌情報の採取」と題した講義があり、“普通の本”の書誌情報について教えて頂くとともに、漢籍を手に取り「見る」ことの重要さを再確認しました。

最終日である三日目は朝から雪が降るほどの冷え込みでしたが、吉澤誠一郎東京大学人文社会系研究科准教授による「清朝の檔案史料にみる虚実」の講義が行われました。檔案史料に関する知識から、マカートニー使節団をめぐる史料の謎まで丁寧に解説頂き、史料とは何か、その性質、目的についても改めて考える機会になりました。

寒い三日間ではありましたが、普段大学に篭っているだけでは体験することのできない有意義な時間を過ごすと同時に、先生方や若手研究者の方々の研究に対する熱意を感じることができました。最後になりましたが、若輩者の私がこのような機会を得ることができたのも、講師の先生方、本セミナーの運営に関わってくださった方、参加者の皆様のおかげだと思っております。本当にありがとうございました。


瞿艶丹

京都大学文学研究科東洋史学
博士後期課程二年

3月19日から21日の三日間にわたり、東京大学山中寮内藤セミナーハウスにて開催された「つながる・史料と研究」東洋学・中国学合宿ワークショップに参加させていただいた。

去年の12月に研究室の掲示板にて今回の合宿ポスターを拝見した際、これは実に贅沢な講義内容だと感じ、さらに「つながる」というキーワードに好感を持ったため、応募した。

博士後期課程一年目がすでに終わったこの初春、自分の研究に対するある種の不安を抱きながら、山中寮を訪れた。

今回の合宿ワークショップは、異なる分野を研究される先生方の講義及び若手研究者による研究発表という二つの部分によって構成された内容であった。一日目の午後には、土口先生が秦漢時代の簡牘文書について詳しく紹介してくださった。

二日目の午前は、成田先生の「南北朝・唐の石刻史料と異体字」と題する講義が行われた。拓本資料や異体字のデータベース、碑別字が多く現れた要因などについて、詳しく説明されていた。その後、実物の拓本一枚を皆で一緒に読み、ひとつひとつの文字を弁別し、碑別字の類別について実習した。類比法や連想法により、当初に読めなかった文字を最後に解明することができた瞬間、テンションは頂点に達し、これが自身にとって何よりも嬉しく、また楽しかったことであった。

午後は八名の若手研究者による研究発表が始まった。それぞれ異なる時代や課題から展開しており、とても豊富な内容で、活発な討論が行われた。自身の研究時代と近いテーマについてももちろんたいへん勉強になったが、全く知らなかった分野の報告からも、多くの示唆をいただいた。

その日の夕食後に行われた永田先生の「明清時代の漢籍と書誌情報の採取」は、私が一番魅了された講義のひとつである。人文研の先生方々の著作を拝読すると、あとがきの識語によく「北白川窓下」などの表記があり、非常に羨ましく思った。あの青々と茂った植物たちに囲まれた白くて綺麗な建物を思うと、いつも漢籍や書誌学との関係を連想させられる。しかし今まで漢籍の世界で本格的な風景を窺う機会がなかった。永田先生の博引傍証によって学んだ、図書カードの活用法や、ミステリーを解くように書誌情報を把握する方法は、私をこの世界と少し近づけてくれたように感じた。また、「つながる」に即した先生の結び話は、聴き終えた今も耳元で響いており、感銘を得た。

その夜、隣の男子部屋で皆が拓本を読んでいる風景を覗き、男子に敬服を称したが、結局女子の方でも研究に関する様々な問題や悩みをめぐって、夜が遅くになるにつれて議論がだんだん盛り上がり、皆で深夜まで検討し続けた。

最終日の午前に行われた吉澤先生の講義では、様々な檔案史料を用い、綿密な分析法を教えていただいた。同事件に関して種々の史料の間には齟齬があり、これらを分別して歴史的な真実を明らかにするのは研究の出発点であり、史料の裏に隠された曖昧さや可能性を味わうことはとても面白かった。

あっという間の三日間であった。夕暮れ時に帰途につき、あいかわらずの不安は抱いたままであったが、新しい季節に向く勇気も湧き出てきた。今回の合宿ワークショップでは、秦漢から近代にわたる長い歴史を漫遊し、簡牘・石刻・漢籍・檔案など豊富な史料に陶酔し、非常に充実な時間を過ごすことができた。最後に、本ワークショップ運営や準備に携わってくださった成田先生ならびに、他講師の先生方々、皆様にこの場を借りて心よりお礼申し上げる。参加者達は互いに「つながる」ことができたように思われる。またこのような機会があるようであれば是非参加させていただきたい。


IMGP1609参加者一同。3日間お疲れさまでした!

U-PARL特任研究員 成田健太郎