開催趣旨
東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)は、公益財団法人上廣倫理財団の寄付を得て、2014年4月に附属図書館に設置された研究組織である。第3期(2024―2028年度)は、1)「Society5.0における人の生き方」をテーマとする東西融合・文理融合フォーラム、2)デジタル資源の作成、3)アジア研究図書館運営、4)社会還元という4つの事業を展開している。
U-PARLでは、第1期より継続してアジア研究関連資料のデジタル化を進めてきた。デジタル化する資料を研究者が選定し、公開している。これにより、様々な資料や関連する情報へのアクセスが容易になり、さらなる研究の発展が見込まれる。
また、アジア研究図書館は設立当初より「アジア研究のハブ」となることを目標に掲げてきた。この理念のもと、U-PARLではサブジェクト・ライブラリアン(SL)による、デジタル化資料の紹介、研究者同士をつなぐリエゾンなどの活動にも力を入れている。
1940年代前半期のベトナムは、日仏共同支配期にあたり、日仏の文化工作/プロパガンダがせめぎ合う状況にあった。この複雑な政治・社会・文化の理解には、ベトナムや日本、フランスというそれぞれの国だけでなく、文系理系の学問を越えた視点が有効なのではないかと考えられる。以上のことから、本企画では、U-PARLでデジタル化した/デジタル化予定の資料を用いて、東西・文理の枠を超えた三つの視点(フランス/日本/ベトナム)、三つの分野(建築/美術/文学)から、とりわけ日仏共同支配期のベトナムを概観し、それにより新たな地平が開かれることを期待したい。

【日時】 2025 年 10 月 25 日(土) 14 時 ~ 17 時
【会場】 東京大学本郷キャンパス 総合図書館大会議室(事前登録制) 登録フォームは[こちら]
プログラム
*発表順序および発表タイトルは若干変更の可能性あり
13:30                  開場・受付開始
14:00                  開会・趣旨説明   : 田中あき (東京大学 U-PARL・特任研究員)
14:10-14:40          建築: 大田省一 (京都工芸繊維大学・准教授) 
         「仏領インドシナの公共事業政策」
14:45-15:15          美術: 二村淳子 (関西学院大学・教授)  
          「1940年代の佛印における藝術政策─ 関口俊吾を中心に─」
15:20-15:50         文学: 田中あき
          「日仏共同支配期に書かれた児童書『道士』の寓話性を読み解く」
(休憩・10 分)
16:00-16:25          コメント: 岩月純一 (東京大学・教授)
16:30-17:00          ディスカッション
ファシリテーター: 岡田友和 (大阪大学・准教授)

要旨:
「仏印の公共事業政策」 大田省一
植民地における土木・建築事業は、開発のシンボルとして政権が注力することがしばしば見受けられる。フランス領インドシナにおいても、歴代総督が公共事業を重視してきた。なかでも、大規模インフラ整備をおこなったポール・ドゥメール、協働政策下で現地人向け施設をつくったアルベール・サロー、日仏共同支配下でフランスの開発努力のプロパガンダ的開発を行ったジャン・ドク―らが、それぞれの政策意図に合わせて公共事業を手掛けた。特に、40年代のドク―政権では、フランス側の思惑の下で、ベトナム人の次代の勢力が育っていた。彼らは、独立後の国家で大きな役割を果たすことになる。本発表では、上記3人の政権下の公共事業の特徴を概観し、それが現地人に与えたインパクトを考察していく。
「1940年代の佛印における藝術政策─ 関口俊吾を中心に─」 二村淳子
昨今、1940年代の仏領インドシナにおける文化工作に関する研究は蓄積が進み、その全体像が徐々に明らかになりつつある。しかしながら、美術・芸術分野における具体的な展開については、依然として未解明の点が少なくない。そこで本報告では、1943年以降に実施された仏領インドシナにおける美術・藝術政策を取り上げる。日本およびフランスそれぞれの政策が相互に絡み合っていた様相を明らかにするとともに、そのなかで浮かび上がるキーパーソン──関口俊吾、町田満男(以上、在仏日本文化会館芸術担当員)、シャルロット・ペリアン(ヴィシー政権下の工藝政策と連動)──を紹介する。最後に、関口俊吾によるインドシナ巡回展覧会を新出資料に基づき紹介し、考察を加えたい。
「日仏共同支配期に書かれた児童書『道士』の寓話性を読み解く」 田中あき
自力文団の主幹メンバー:カイ・フンによる『道士』は、インドの古代説話「一角仙人」をベースにした児童書で、1944年10月30日に刊行された。この当時、世界は全体主義に飲みこまれる危機にあり、世界大戦の只中であった。仏領インドシナにおいては、日仏共同支配期にあり、文学を出版するには、複数の支配者の検閲の目を巧みに掻い潜る必要があった。『道士』には、ベトナムの古説話『嶺南摭怪』のモチーフも取り入れられ、国語の普及に貢献した。インドシナ各国の固有の文化や伝統を「称賛」し「復興」を促すドクーの文化政策や、「民族化」という『ベトナム文化綱領』に適ったものに見える点でも、左右のどちらからも文句の出しにくい出版物だった。一方で、『道士』にはある哲学的要素がある。本発表では、その哲学的含蓄を読み解いていく。
【主催】東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門
27.Aug.2025
 
            